サラサラ祈願

雨は止むか いつ止むか

眉根を寄せて見上げる空から

無情の雨が降り注ぐ

旧暦七夕 サラサラ祈願

癒えますように 逢えますように

軒端を避けた笹の葉は

団扇の風にサラサラ揺れる




願い

長いおつかいの帰り道
小鬼は気づく街並みの変わりように
気難し屋の老人の和菓子舗は
若いご婦人方で賑わうお洒落なカフェに
時折三味線の音が流れていた小さな二階家は
年季の入った欅の看板が外され
ひっそりと静まり返っている
うんしょといま上っている坂道も
並木の銀杏は一本残らず伐られ
夏の木陰も秋の黄金の道も消えてしまった

留守中に届いた大切な便りに
呆然と立ち尽くす小鬼の背中に
「旧暦なら間に合いますよ」と声がかかる
ああ、と小鬼は猛然と動き出す
ありったけの短冊を探し出し
当病平癒 病気平癒 と
せっせと墨を摺りだした
そわそわと気をもんでいた小人たちは
それっとばかりに笹竹の準備に駆け出した




叱咤

逃(のが)した月を悔やんでも
過ぎた花を惜しんでも
時が戻って来るじゃなし
そらそら空を見上げてみろよ
不穏な雲を背景に
真白な鳥の群れがゆく
重々しい翼を操っての
見事な編隊、美しい旋回
そうして今度は耳澄ませ
「こう、こう、こう」と鳴く声を
「幸、幸、幸」の言祝ぎ(ことほぎ)と聞け

なんてん

あぁかい実
なんとしょう
雪のうさぎのおめめにさ
あぁかい実
なんとしょう
雪のお椀であかまんま
あぁかい実
なんとしょう
雪のだるまの稲穂かんざし
あぁかい実
なんとしょう
雪がちぃとも積もらんで
うさぎもお椀もだるまも出来ぬ
積もらんのぅ
つまらんのぅ

新年の雪

新たな年を清めるように
細かな雪が舞い踊る
屋根の瓦を白くして
木々の枝葉を白くして
眠る枯野を白くする
やがて雪は様相を変え
水気の多いぼた雪となる
まるで
冬の終わりのようなぼた雪は
次第に激しい降りとなり
目指す真っ赤な郵便ポストを
またも僕から奪い去る

異変

その小さな紅い実は
新年を迎えぬうちに
食べてはいけないのではなかったか
重みで枝が垂れるほど
みっしりと実をつけて
鳥たちを誘惑するのだが
その小さな紅い実は毒を持つ
年を越し、寒さに当たり
徐々に毒気が抜けて
ようやく口にすることができるもので
餌が尽きる冬場において
鳥たちには貴重な食べ物であるはずだ
それだのに
土蔵の屋根を越すぐらい大きな木に
たわわに実った紅い実を
ひと粒残らず食べてしまっている
暖かな冬が早々に毒を抜いてしまったということか
そして
鳥たちはそのことを見抜いた上に
この実を食べ尽くしてしまっても
新しい年に困ることはないと知っている
右往左往しているのは
我々人間だけなのかもしれない

トナカイのクリスマス

サンタがそりに乗り込み
再び出発しようとしたそのとき
いきなり窓が開いて
小さな男の子が叫んだ
「メリークリスマス!」
思わず振り向いたトナカイは
男の子と目が合った
「メリークリスマス!」
男の子はもう一度叫んだ
トナカイは首を大きく振った
シャンシャンシャン……
凍りついた空を駆けながら
トナカイは自分の胸に
得体の知れない温かなものが
じわりと広がるのを感じていた
やがてそれは
トナカイの目尻にぽちりと浮かび
小さな氷の粒となって
きらきらこぼれて星になってゆくのだった

遅い雪

柿の木の枝に 雪積もる
うっすらと
眠りを誘うように 雪積もる
実はどうしたかと
目を凝らすが
たちまち霧が立ち込めて
視界はすっかり失われてしまう
きっともう
実を食べ尽くされた柿の木は
うっすらの雪に術をかけられ
霧が晴れる頃には
ようやく
冬の眠りにつくのかもしれない

冬の庭

花は落ち
葉も落ち、僅かに緑の残る
静寂の庭にヒヨドリ訪ね来て
鋭い声で鳴きたてる
炬燵のまどろみから覚めた老人が
「来たか」とつぶやき立ち上がる
少しして
庭にしつらえた餌台に
半切りにしたハネモノの林檎が
ポンと置かれる
どこで見ていたのか
早速現れたヒヨドリは
ひと通り警戒をしたのちに
半切り林檎を一心に啄ばみ始める
そのうちメジロも来るのだろう
暮れてゆく静寂の庭に
小さな灯りがポッと点る


ほくほく

雪ではなく
雨が降る十二月に
気温差だけではなく
何か調子がとれていないように感じるのは
石焼きいも屋の
のんびりとした売り声が流れないからか
ぴぃぃぃと甲高い笛のような音を出して
ゆっくりとトラックを走らせる
石焼きいも屋が姿をみせぬ
湯気の向こうで
軍手をはめた手が
窯のなかのよい頃合のいもを選り
茶色の紙袋に放り込んでゆく
「いしや~きいも~ や~きいも~」
来たからといって
勇んで買いに行くわけでもないのだが…ね


«師走風景

Moonlight

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