揺れ

戯れに引いた御籤(みくじ)に図星を指され

おろおろ歩いて小石につまづく

力加減を過(あやま)つ指で

細縄に結わく御籤はちぎれてしまう

どうしようどうしよう

ごめんなさいごめんなさい

竹林が風を孕(はら)んで揺れる揺れる

獅子の毛振りの如く 揺れる揺れる




畏(かしこ)まる

鳥居の傍に流れの速い小さな川がある

川というより水路なのだろう

遠い昔の開拓事業の賜物に違いない

あの真っ白な雪を頂く山から

幾つもの紆余曲折を経て流れ至っているのだろう

清冽な流れは水草を勢いよく洗い

迷うことなく一直線に進んでゆく

辺りに雪など微塵もみられないが

その冷たさは指がちぎれてしまいそうなほどだ

いかにもここの祭神(さいじん)に相応しい

御手洗(みたらし)川の風情である




白い花

山茶花が咲いていた
杜の奥でひっそりと
白い花を咲かせていた

七五三詣の幟が賑やかに並ぶ参道
泥の飛沫をつけた菊柄の手ぬぐいが翻る手水舎
どろりと緑に濁った池には落ち葉が浮かぶばかり

山茶花が咲いていた
「忘れていたのでしょう」と
花びらを一枚二枚と落とした



変わりゆくもの

今年は雨とは無縁そうな秋祭り
合図の花火があがると
どどん どどん 
祭り太鼓が聞こえてくる

時折マイクを通したような声がするが
神輿が出るのは明日だけだろうか
子ども神輿も見かけなかった
それでも街はざわつき
迂回で車はごちゃついている

夜更けを待たずに
祭りの気配はなにも感じられなくなった

秋虫たちがやけに声高に鳴いているだけである



不穏

アメンボたちは
漂う枯葉や千切れた枝葉を避けながら
緑に濁った池の面(おもて)を滑り行く

いつもなら
池に架かる小さな石橋に立つと
どこからともなく現れて
ぱくりと口を開ける真鯉たちが
幾ら待ってもいっこうに姿を見せない

手水舎の一枚ぎりの手ぬぐいは
やはり泥をつけられたまま
どこかしょんぼりとした風情で
ゆら、ゆら、と揺れている




黙祷

心のなかで

静かに鈴(りん)を鳴らそう

無念纏(まと)うた魂の為

百日紅の花の下で

静かに鈴(りん)を鳴らそう



手ぬぐいの行方

手水舎の柱に小さな貼り紙があった

「もしここに手ぬぐいがないときは
私たちの悲しみが深まったとお察し下さい」

細く小さな文字が悲しみに震えている傍で

一枚になった手ぬぐいが

やはり泥をつけて風に揺れている

季節を楽しませてくれた手水舎の手ぬぐいは

もう二度と見られなくなってしまうのだろうか



手水舎で揺れている三枚の手ぬぐい
どれも茶色い泥で汚れている

十日前も汚れていた
一週間前も汚れていた
三日前もそのままだった
今日もやはり汚れたままだった

今までにないことだ

作法に従って
手水で清めた後は
ゴソゴソと自分のハンカチを取り出して拭いた

蝉の声は空しく
小鳥の声は哀しく響いた



愛宕さま

降り止まぬ雨を散らす様(よ)に
どどんと花火が打ち上がる
さぁさ、祭りのはじまりはじまり
愛宕の山の神様の
年に一度のお祭り日

雨に濡れてる急な石段ゆきましょか
それとも細いだらだら坂を
ぬかるみ避けつつゆきましょか

道々下がる提灯の灯が
雨のせいだか頼りない
心細げな子の足元を
そっと照らすはほおずき提灯
ニッと笑った小鬼の仕業

ふたり仲良く傘さして
目指すは頂上愛宕さま
なにをお願いするのやら

雨も少しはその降り方が
やさしくなった祭りの夜



コシアキトンボ

カメ吉が消えた濁り池は
今や真鯉とアメンボの天下になった

そこへつぃーとやってきたのは
コシアキトンボだ
空梅雨が明けたのかどうかもわからないが
コシアキトンボはちゃんとやってきた

からかうように
僕の目の前を数匹が自在に飛び廻る
嬉しくなったけれど
今年ハグロトンボを見ていないことに気づく

出会えなくなるものたちが
少しずつ増えている
消えてゆくものたちが
少しずつ増えている

鎮守の杜で
蝉が一斉に鳴き出した



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