十六夜の舟

願ったほどの雨にはならず

遠くへ流されてゆく筈の小さな笹舟は

川の本流から離された

淀みのなかをさまよっている

ゆらゆら くらくら さまよっている

雲間からお出ましの十六夜の月が

明るく照らし出す笹舟は

ゆらゆら くらくら 水面に遊ぶ

恵みの雨が遠のけば

やがて干上がる淀みのなかで

乾いて裂けて朽ちる笹舟

そっと載せた小荷物は

そのまま川底へ沈むのだろうか

どこへも行き着かず 解放もされず

ずぶずぶと沈みて 眠りにつくのか




月光

街が寝静まる頃になり

ぷるると身震いでもしたかのように

月はそれまでの滲んだ輪郭を振り払い

その輝きを持って 下の世界を照らし出す

火星という赤い星を供にして

煌々と放たれる光を容赦なく感じるものは

素早く物陰に身を潜めていることであろう

月光浴を諌める言葉は風船に詰めて

夜空に向けて パンッと割ってしまおう

素晴らしく尖った銀の針先で ちょんとつけばよい

赤い星がピカピカと瞬き

月では兎が手を叩いて小躍りするのがみえるだろう




月に雲

立待ちの月が南中を過ぎる頃



ようやっと息がつけるほどの空気が


そよ と流れてきた


空梅雨はまだ明けぬらしい


ああ また雲たちが寄せてきて


眩(まばゆ)い月をすっかり隠してしまったよ





苺の月

梅雨空に 苺の月と出逢えたこと

それこそが幸運の訪れそのものだ

空に蠢く数多の雨雲は退き

美しい輝きを放つ苺の月のひとり舞台だ

歪み縮んで煤けた僕の魂よ

そのまぶしい月光をたっぷりと浴びるのだ

気を失うほどに たっぷりと 浴びるのだ




赤い月

太陽の熱い吐息に絡まれて


萎んだからだで突っ伏した


床の上から臨む月は


今夜も赤く夜空に滲(にじ)む


背中を撫でゆく冷ややかな川風に


去りゆく月を追う眼(まなこ)も


やがてはとろりと閉じるだろう






おやすみなさい

雨は降ってはいないけれど

こんなに雲が厚くては

お月さまは無理ですよ

あわよくば

星のかけらでも 落ちてきやしないかと

闇のなかに

白い両手を差し出しても 無駄ですよ

さぁ 今夜はもう眠るのです

明日ならば

下弦の月を拝めましょう




月よ

日中の暑さそのままに

オレンジ色の歪(いびつ)な月が昇る

胸の内につぃと芽生えた黒いもの

今日もまたどす黒い霧を吐いて成長する

おおよ、友よ

しかし 再び見上げた空には

寝待ちの月が白く輝いている

歪と見えた形もその丸みに優しさを湛(たた)え

禊を済ませた清浄さを思わせる輝きの白さは

邪(よこしま)な胸を打つと同時に苦悶を与える

おおよ、月よ 月よ 月よ




滲(にじ)む

なにも哀しいことなどないはずなのに

何故か滲んでみえている

ああ そう これはきっと

あなたの哀しみ

それが染み出して滲んでいるのだ

中天に懸かる頃

哀しみはすっかり癒えたのか

滲みなど微塵もみられない

白く輝く小望月となった

そこで お供の木星が囁くには

「きみはずっと前から滲みっ放しだ」




最後の三日月

西の空に懸かる月は

かろうじての三日月

明日には半月まで膨らむのだろう

やけに大きくぴかぴかしてみえるのは

明日は会えないと踏んだからか

お願いだ

その光で 朝から続く頭痛を焼き払ってくれないか




白木蓮のつぶやき

昼間はあんなに晴れていたのに

夕陽もあんなにまぶしかったのに

日が沈んだらすっかり曇ってしまった

咲くのはまだ先と思っていたけれど

レンギョウやコブシのねえさんたちが

「今夜は満月だから」と

「おまえさんの白い花びらが

まんまるお月さんに照らされたら

さぞかし綺麗に違いない」と言うものだから

おそるおそるつぼみを膨らませて

咲き始めてみたのだけれど

空は真っ暗 お星さまも見えやしない

「お生憎さまだったねぇ」と

ねえさんたちは早々に眠りについた

次の満月の晩が来るまでに

わたくし咲いておられましょうか




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