早起きの月はとうに姿を消してしまった
色づき始めた柿の実を
冷たい秋風が撫でてゆく
暗闇の空に秋虫の声が吸い込まれる

銀河を行く列車は見えないか
「銀河ステーション」の声が聞こえてこないか
目を凝らし耳をそばだて夜(よ)が更ける

不意に貨物列車の鋭い警笛が響き
我にかえるとくしゃみが出た



月と梨

月の出を待ちながら

カシャ と梨にかじりつけば

甘い気持ちがあふれて出て

昼間橋の上で出会った見事な白髪のご婦人の

なでしこ色の口元がひょぃと思い出されて

今日はなんだかくすぐったい日だったと

BGMを奏でている虫たちに

話しかけたくなる下弦の夜



やんごとなき月

雨は朝のうちに上がったが
厚い雲はみっしりと空に居座り
それは夜になっても続き
満月だというのに
ひと筋の光さえ洩れてはこない

秋虫たちは一段と声を高くし
盛んに満月を呼ぶが
重い緞帳(どんちょう)のような雲は
このまま明日の雨まで動かぬつもりのようだ

きっと今頃は
都におわすやんごとなきお方のところへ
その姿を現しているのであろう



嵐を待つ

鳴き急いでいるかのような蝉の声も
やっと吹き出した夜の風も
突然ピタリと止んだ
嵐の前の静けさというものだろう

重く湿った空気に
次第に支配されてゆく部屋

厚さを増した雲の隙間から
ちらりと覗いたほぼ満月

やがて雨は
結構な音を立てて降り出した



逢瀬

火曜日はおそらくひどい雨降りで
到底逢いには来れまいからと
厚い雲を押し退けて
姿をみせたその月は
満月といってもいいほどの
美しいかたちと輝きを持ち
灯りを消した部屋の床に
窓のかたちを切り取り照らす

徐々に冷えてゆく空気のなかで
きみの光を浴びながら
さぁて、なにから話そうか



滲(にじ)む月

ビルの上にかかる半月は

ノウゼンカズラのオレンジ色

雨の予報もないのに

じくじくと滲(にじ)んでいる

日付が変わる頃には

すっかり姿を消してしまったが

思えば

滲んでいたのは月ではなく

眺めている自分の方だったのかもしれない



つれない月

薄紅(うすくれない)に染まる夕空に
早くも月が上っている

鉄筆で書いたような
細い三日月が従える雲は
薄墨をたっぷりと含ませた筆先の
軽い調子の重なり合い

やがて辺りが影になり
薄紅が金茶に変わる頃
細い月は輝きに鋭さを増す

早起きの月は
寺の打つ九時の鐘も待たずに
闇に沈んでゆく

消化不良の想いは
ブルーライトに照らされて
居場所を求めて這い廻る



待ちわびて

今夜の風は湿っている

雨の匂い?

いや、朝霧の気配か

寝静まった空に響く貨物列車の通過音

鳴らされる警笛の音が少し重い

空のグラスで氷が滑る

昼間焚いた香がふぃと鼻先を掠める

遅い月が上るまであと一時間、か




月待ちの風

日が傾くにつれて
心地良い風が
部屋中を駆け廻り逃げてゆく

レースのカーテンを吹き上げ
壁掛けのカレンダーを揺らし
うっかり置き忘れた
幾枚かのメモ用紙を辺りにばら撒いて

すっかり日が沈むと
風の心地良さに肌寒さを覚える
少し雲が出ているせいもあるが
今夜は星も瞬かない
二十幾日目かの月に至っては
お出ましは午前様だ

ベランダで風に吹かれながら
暗い空を見上げ
月待ちでもしようか
もっとも
懸命に掛ける願もなくなってしまったけれど



月の光、雨の匂い

隣家の姉妹の
幼い歌声が途絶えた
月はまだ上り切っていないが
もうおねむの時間だろう

日中の生温かい大風は鳴りを潜めたが
空気が動かず少しばかり息苦しい
月が中天にかかる頃
やっとひんやりとしてきた空気が
微かにレースのカーテンを揺らし始めた

月はといえば
満月より欠けた姿だが
その煌々たる光は衰えていない

但し今夜はその月の前を
次々と黒い雲が通り過ぎてゆく
なんとも素晴らしいスピードで抜けてゆく

灯りを消した部屋のなかは
その度に明るくなったり、闇に沈んだり
まるで映写機を廻しているようだ

ああ、

雨の匂いがしてきたよ



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