ぞわぞわ虫

少しだけ 春を感じた 陽射しが

少しだけ 胸に巣喰う ぞわぞわ虫を

少しだけ 駆逐する

いつだって 耳から入り込むそいつは

黒い霧を吐きながら 増殖する

そうして じわじわと脅しをかけてくる

春の陽射しが 有効なのかどうか

はっきりとは わからないが ただ

少しだけ 息がつけたのは 確かだ




白塗りの雪

春想う 白詰め草の夢散らし

静かに舞う雪次第に積もりて

あたかも舞妓の白塗りのごと

板刷毛の動きは見えねども

辺り一面 白く白く塗り広げゆく





雀の実

なんという木か分からぬが

すっかり葉が落ち寒そな枝を

幾本も幾本も 天に突き出して

通り掛かりの塀の向こうに立っている

今日はどこか様子が違うと目を凝らす

すると

雀が 雀が 雀が 雀が 鈴なりだ

からだを精一杯に丸くして

団子のようななりをして

雀が 雀が 雀が 雀が 鈴なりだ




さらわれたもの

不用意に開けた窓から

びゅうと風が吹き込んで

たくさんの言の葉をさらっていってしまったのだ

あわてて手を伸ばしたけれどもう届かない

さらわれた言の葉は木の枝に引っかかっているのか

湿った地面の上に落ちているのか

さらさらと降り出した雪が

あっという間に隠してしまったから

いまきみにかけたい言葉がみつからない




感傷

通り掛かりの道の脇に

幾羽かのカラスが群がりて

毛皮の塊を啄ばんでいる

嗚呼それは

車にはねられたと思しき狸の亡骸

弔いは鳥葬のあとに風葬となり

毛の一本も 血の一滴(ひとしずく)も

日に照らされ 風にさらわれ

やがては土に還りゆき

痕跡はすっかり消し去られてしまうのだろう

その代わりに

ぽちりと小さな星がひとつ

寒空に増えたような気がしてならない僕を


下らぬ奴と嗤(わろ)うておくれ嗤うておくれ



昼餉(ひるげ)のあと

歩道の脇に寄せられた

雪の小山がきらきら光る

融けた雪で湿った広場に

陽だまりを探して雀が集う

駐車場に停めてある車では

午睡をとる男たちのなかに

まだあどけなさの残る寝顔がひとつ




美しい朝

川に沿って蛇行する真白き霧

森や林の枝という枝は

真白く儚い衣を纏(まと)いて

建物の屋根 橋の欄干 土手の草々

非常階段の手すりまでもが薄化粧

満開の真白き花をつけた桜並木は

幻想の世界へと誘(いざな)うかのようだ

凍える息は負けじと真白く

自ら樹氷となってゆく姿を想う

美しい朝

陽が高く昇るにつれて

全ては魔法のように消えていった



僕はきみに逢った

そう それは大雪になる少し前

片耳のちぎれた黒猫に出逢った少しあと

立ち寄ったコンビニでチョコレートを物色していたとき

チャイムが鳴って入ってきたヤツが

すぐにきみだと分かったよ

帽子も服装も髪の長さも背の高さもなにもかも

すぐにきみだと分かったよ

本物のきみは何千キロの彼方にいることは百も承知

それでもあれはきみだった

トローチと煙草を買ったきみは

僕のすぐ傍を通ったけれど

なんの香りもせず 何より空気が揺れなかった

うつむき加減で店を出たきみは

ドアの向こうで ふっとその姿を隠した

僕を縛っていたチカラが急に解けて

あわてて外へ追って出たけれど

きみはもういなかった

そう やはりあれはきみだった

そうだろう?





鬼は外

ノスリは言う

おまえの指など欲しくはないわ

やがて訪れる春の日に

悔いても戻らぬ紅差しの指

早(はよ)う追い出せ 内なる鬼を

凍えて縮こまった胸に巣喰う

内なる鬼を 早う追い出せ

鬼は外 鬼は外 鬼は外

いつの日にか 福は内




寒紅(かんべに)

引き出しの奥へ 奥へと

寒紅の猪口(ちょこ)

紅差し指はもう要らぬ

ちょっこり切ってしまおうか

ノスリの餌に投げようか




より以前の記事一覧

Moonlight

2018年2月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28      

素敵なブロガーさん♪

無料ブログはココログ