香り花

風に千切れたニセアカシアの花房が

乾いた地面に落ちている

うっとりとする香りは既に失われ

もしやと拾い上げて鼻を近づけても

もはやあの香りは記憶のなかにしかない


高い所に咲く桐の花は

その香りにはなかなか気づけない

命尽きて落花して そのまま朽ちてゆく

しかし 拾い上げて鼻を近づければ

ふわりと香り続けていることを知るひとは少なかろう


どちらがどうというわけではない

花が香るのは 人間の為ではないのだから

それでも何故か愛おしい 香り花の終末




へびいちごと蛇

真っ赤に熟れたへびいちご

うぐいすの声を聞きながら育ったのだから

さぞや美味いに違いない

違いないと思うのだが

偶然出会ったアオダイショウは

もっと美味いものを見つけたらしく

梅林のぼうぼうに伸びた下草の間を

しゅるしゅる うねうねと這ってゆく

ああ しゅるしゅるは嘘だ

静かに うねうねと這ってゆくのだ

そうして 不意に鎌首をもたげると

そのままじっと動かなくなった

カメラを向けても微動だにしない


今夜の夢は「安珍・清姫」かもな。。



ミッション

行き止まりの細い道の謎

アスファルトの路面の両端に

「ミッション1」「ミッション2」の文字

そこからくねくねと白いチョークの線が引かれている

思わず辿ってゆくと

いきなり「スタート」「ゴール」と並んで書いてある

これでいったいどんな遊びをしたのだろう

辺りは静まり返っていて

子どもの気配は全く感じられない

行き止まりの細い道の謎





血を吐くまで

鳴かぬなら


さあ、どうすると 時鳥(ほととぎす)


鳴いた鳴いたよ 朝空の下(もと)


殺されちゃあかなわねぇと


幾度も鳴くよ 時鳥




クレマチス

紫色のクレマチス

西側の窓を覆うように咲く

大きな花が幾つも咲く

「いつもの年より大きくて」

「いつもの年よりたくさん咲いたの」

誰に言うのだ クレマチス

誰と話すか クレマチス

僕に話せよ 僕と話せよ

紫色のクレマチス



夢占(ゆめうら)

あまりな少女趣味の夢をみてしまい


夢自体のことは忘れてしまったのに


そんな夢をみた理由を考え続けて 日が暮れた

日付が変わるというのに


自己嫌悪の波は どんどん寄せてくるばかりだ




バラの庭

庭にはバラが咲きだしていた

アーチに絡めたピンクと

壁に這わせた白と

ああ 今年も咲いていると思った

けれども

いや たぶん気のせいなのだろうけれど

今年のバラの庭はどこか淋しい

そういえば

近頃 庭の主の老人を見かけていない

それは たまたまのことなのだよ

時々雨が降る 今日の天気のせいなのだよ

晴れたらまた違って見えるさ

心配性の僕に 楽天家の僕が言った…




郭公(カッコウ)初鳴き

雨は降るのか 降らぬのか


どんよりもやもやの冴えぬ朝に


郭公(カッコウ)殿の声が響く


すっきり晴れた青空を呼ぶように


郭公殿の声が響く





坂道

谷底の町から坂を上る

五月の真夏日の夕暮れ

針槐(はりえんじゅ)の香りを聞きながら

うぐいすの声に励まされ

谷底の町から坂を上る

ようよう辿(たど)り着いた頂上に 風はなかった

じわり と染み出す汗を拭い

次の谷底の町へと坂を下りる




孤独のサイレン

救急車のサイレンが近づいてくる

かつては競い合うように

次々と聞こえてきた犬の遠吠え

サイレンを増幅させ

サイレンを応援するかのように

けれども

いまではひとつも聞こえない

いつの頃からか

ひとつ消えふたつ消えして

とうとうゼロになってしまった

遠吠えの消えた夜の街を走るとき

救急車のサイレンは

殊更淋しげな音を出す




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