秋の香り

ああ、と気がつき

辺りを見廻すと

板塀の向こうから

金木犀がクスクス笑っていた



小菊

四辻の角にある
老夫婦の営む青果店は
彼岸ともなれば忙しい

店の片隅に並べられたたくさんのバケツ
それぞれに小菊の束が入っている
墓へ参る人々が足を止め、自転車を止め
バイクを止め、車を止めては
小菊の束を買ってゆく
高級車で乗りつけた初老の紳士は
バケツ丸々三つ分お買い上げだ

普段の商いからすれば
めまぐるしいような回転なのに
老夫婦はいつものペースで悠々と
小菊の束を売っている



橋の上で

ぎゃあぎゃあと
川べりの森のなかで
鳴き交わしている鳥たち

そんな喧騒に頓着するでもなく
無数のトンボたちは
緩やかに流れる川の上を
悠々と飛んでいる
秋晴れにしては少し痛い陽射しを浴びて
翅(はね)や胴体がきらりと光る

「今日はなんやら暑いわ」
橋の真ん中辺りにある腰掛けで
煙草をふかす老人がひとりごちる

知らぬ同士で水筒の麦茶を分け合い
曖昧な季節の風を受けながら
橋の上でぼんやりと時が流れてゆく




翅(はね)

薄茶色の翅(はね)を持つ一匹の蛾が
ぱさぱさとひっきりなしに翅を動かしている
嵐を避けて飛び込んできたのだろう
窓の下のコンクリートの壁の前で
難を逃れた蛾は休息をとり
再び雨上がりの空へ
飛び立とうとしているようだった

しかし
風が止むと翅の動きはぱったりと止まる

翅は吹き返しの風で動いていただけだった




儀式

不気味なほどの静けさのなかで

嵐を待ちながら

かつてうっとりと聴いた旋律を流す

それは小さな棘を幾つも放ちながら

部屋のなかを対流する

熱を帯びたからだに

小さな棘は際限なく突き刺さる

これはいったいなんの儀式か

明け方を目指して更に夜は進む

嵐の予兆を孕(はら)んで夜が進む



過ち

ひらひらとからかうように
飛び廻る小さな蝶
白い翅(はね)にオレンジ色の紋をつけて
あちらこちらと飛び廻る

一枚の大きな葉に降りた蝶は
しばらくしてから
ゆっくりとその翅を開いてみせる
現れた彼の表の翅は
なんとも美しい青紫色をしていた

ふと思った
雨の日はどこにいるのだろう
嵐の日はどうしているのだろう
そんな僕の心の動きを察したように
彼はひらひらと離れていった



水占(みずうら)

川の流れのなかほどに

すっきりと立つアオサギは

何を見ている何想う

黒い冠羽(かんう)を風に震わせ

何を見ている何想う



思案

折からの大風に

枝垂れる萩は右に左に揺さぶられ

紅紫の小さな花が

必死に枝にしがみつく

咲き終えて

足元に散り積もった萎れた花は

下草の上を転がされる

この風では

蜜を吸いに来る蝶たちも難儀をしていることだろう

紅紫の蝶のような花は

風に翻弄されながら思案に暮れる





五分(ごぶ)の魂

すこぅし色づき始めた青柿の下で

まだ日の暮れぬうちから

秋虫たちが鳴いているよ

土蔵の脇の日陰の草むらのなかで

待ち兼ねたように鳴いているよ

それはふっつりと声の途絶えた

ツクツクホウシへの鎮魂歌

すっかり暮れた夜空に向かい

鳴くよ秋虫鳴くよ秋虫



独り言

雨が強くなった

虫の声はもう聞こえない

「オメデトウ」のつぶやきは

ポロリこぼれて

床の上を転々とし

壁に当たって砕け散る




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Moonlight

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