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2018年3月

さくら咲いたら

さくら 咲いたらどうしようか

しゃぼん玉でも飛ばそうか

満開のさくらの下で

しゃぼん玉でも飛ばそうか

露店も閉まり 焼きそばの匂いも消えた頃の

花見提灯の灯りも消えた頃の

静かな闇に広がるさくらの下で

しゃぼん玉でも飛ばそうか



猫と小鬼と十三夜

十三夜を見損なったと機嫌の悪い猫が

寝床で十三夜の月を歌う

隣で小鬼が何度も寝返りを打つ

オイラだって見ていないのさ

満月を見たらいいよ 満月を

駄目ダメ 十三夜がいいんだよ

ぶつぶつぶうぶう口説いているが

いずれ眠気に負けるであろう猫と小鬼

十三夜の寝息を立てて眠る眠る

すうすう すやすや おやすみなさい




梅の香

「梅林広場の梅が満開だってよ」

どこかで聞いたことあるようなフレーズを耳に

だらだらと公園の坂道を上る

なるほど林を透かして梅色が見え隠れする

白とピンクと ピンクと白と

緩やかな斜面の広場に風が通り

梅の香りが追いかけてくる

二月に逃げられ 三月に去られようとしている僕を

梅の香だけが追いかけてくる




おかえり雀

朝 ゴミ出しに行く頭の上で

久方ぶりに雀が「おはよう」と鳴いている

冬の間いったいどこへ隠れていたのだ

裸ン坊のイチョウの枝に止まった雀は

まだ丸っこいからだをしている

大方また駐車場の石綿の隙間を見つけて

巣作りを始めるつもりなのだろう

おはよう 雀

おかえり 雀




手ぬぐい舞う

昼の半月に春の風が吹き

手水舎に三枚の手ぬぐいが舞う

泥汚れの一切ない手ぬぐいが舞う

見覚えのある桜の花柄も舞う

憂いが綴られた貼り紙は

柱からきれいに剥がされて

何事もなかったかのように

鯉の口からご神水がとくとくと流れ落ちる

池の真鯉は戻っておらぬが

ひとの手を逃れたふきのとうが

縁の石垣の隙間から

立派な花を咲かせている




春霞

春霞 ぼんやりと

遠目に見える桜木は未だ色づかず

それでも冬鳥は次々と旅立ってゆく

彼らの美しい一途さを羨みながらも

自らは下らぬ一途さを捨て切れず

同じ過ちを繰り返しては煩悶する

春霞 ぼんやりと

色づかぬ桜木の下で眠るかよ おまえ




つぐみとりんご

羽の美しい文様をこちらに向けて

つぐみは一心にリンゴを啄ばんでいる

四、五日(しごんち)姿が見えずにいたから

とうに旅立ったのだと思っていた

色の変わり始めたりんごを

つぐみは一心に啄ばんでいる

たんとたんと食べるがいいよ

北への旅は長かろう

北への旅は辛かろう

滋養蓄え勇ましく

北への旅に飛び立つがよい




待ちかねて

続々と流れてくる花の便りに

溺れそうになりながら

羨ましさよりも 淋しさが募る

ひとり取り残されたような淋しさが

いずれもうじきここにも届くというのに

今宵もまた やけに大きく見える三日月が

どんどんどんどん霞んでくる




名残りの雪に

「にいさん、雪だわ」

湿り雪の降りように

思わずガラス戸を開けて物干し台に出る

お向かいの屋根や庭の立ち木がみるみる白くなってゆく

「中へお入り。風邪をひくよ」


「きっとお似合いのふたりなのよね」

唐突な問いかけに にいさんはちょっと間をおく

「ああ、お似合いのふたりだよ」

「おめでとうだわ」とういう言葉は

喉に絡まって 声にならない


ようやく咲いた梅の花に

湿り雪は容赦なく積もってゆく

名残りの雪になるかしら と言いかけて

桜の花に雪が積もった年のことを思い出す

湿り雪の降るなかを 冷え冷えの桜餅を手土産に

悪戯っぽい笑みを浮かべて

にいさんを訪ねてきたあの日のことを 思い出す


雪はまだまだ止みそうにない





鉋(かんな)彼岸花

鉋(かんな)で薄く削った木の皮を

十字に合わせて彼岸花

赤 黄 紫 色とりどりに

墓前に供える彼岸花

固い花びら 湿り雪受け

色を濃くして 寄り添い佇む

線香の煙を身に纏い

やがては 赤 黄 紫の

色水流して お役が終わる





※春彼岸に生花のなかった東北地方では
 鉋彼岸花や削り花などを作って
 墓前に供えていました。
 生花が流通するようになった現代でも
 その風習は続いており、彼岸前には
 八百屋やスーパーの店先で
 うず高く積まれて売られています。

 

ゴメンナサイのサイ

サイは

死ぬときに

ゴメンナサイって言うのだろうか

ボクは先に行くよ

そのときが来たよ

きみをひとり残してしまうな

ゴメンナサイって言うのだろうか




雪代(ゆきしろ)

雪代(ゆきしろ)流れる川の色に

あらためて春を思う

緑が見え始めた枯れ色の土手

ぷくりと膨らんだ水仙のつぼみや

ぴょこりと現れたチューリップの芽

花を咲かせる梅の木も増えてきたところで

また雪になるらしいが

思えばいつもと同じである

行きつ戻りつを繰り返し

或るとき一斉に なにもかもが花開き

春 春 春 と押し寄せてくる





※雪代ー雪融け水のこと

ドロップ

紅いドロップは嬉しいとき

橙色のドロップは楽しいとき

檸檬色のドロップは元気を出したいとき

そして

白いドロップは忘れてしまいたいとき

つんとくる薄荷の涙で誤魔化したいとき

小さなひと粒 かりり とかじるよ




春彼岸

冷たい風がびゅぅと吹くものだから

せっかくの陽射しも散ってしまう

咲き始めの梅が必死に枝にしがみつく

週中の暖かさが嘘のようだと

身を固くして墓掃除をする老人たち

「東京で桜が開花」のニュースを耳にしても

どこか異国の話でもあるかのように無関心だ

和菓子屋のガラス戸に貼られた「さくら餅」も

風にぷるぷる震えている



三寒

寒い寒い

今日はまたまた冬に逆戻り

八百屋の店先に積まれた

色とりどりの削り花も震えている

たったかお遣いに走る 小鬼の鼻が真っ赤っか

最後のお寺で白湯(さゆ)の振る舞い

熱い熱い

けれどからだが温まる

ぐぅと腹を鳴らした小鬼の前に

そっと餅が添えられた




鳥たち

山の向こうの湖では

白鳥たちの北帰行が始まったらしい

僕が会いに行く この辺りの白鳥たちは

とうに帰ってしまったのだろう

渡り鳥たちは

季節の移ろいをいち早く感じるものらしい

冬の鳥が去り 春の鳥がやって来る

留め鳥たちも 彼らなりの移動がある

活発に行き交い よく鳴くようになる

そうしてはるばるやってくる

春の鳥たちを待っているのかもしれない



観覧車幻想

最後に観覧車に乗ったのはいつだったろう

ゆるゆると緩慢な速度で

天に向かって上昇してゆくけれど

天には程遠いところが頂点で

再び時間をかけて地面に降りてきてしまう

このままどんどん昇れ という願いは叶わず

降り立った地面はダートムアの沼地よろしく

ずぶずぶと全てを呑みこもうとしている

魔犬の咆哮が闇夜を渡る

そうか これが最後の観覧車か




賑やかなランドセル

一気に暖かくなった下校時間は

いつもに増して 元気な子どもたち

氷点下の朝に着込んだダウンジャケットを振り回す

幾つものランドセルの塊は

ついたり 離れたり くねくねよれたり

歌うかと思えば 暗誦を始めたり

笑い声や 友だちを呼ぶ声

交差点で別れる「ばいばーい」の声が

建物の間で谺(こだま)する

賑やかなひととき



小虫の雪

朝 小虫のような雪が降っていた

風に乗り 風に舞い 風に巻かれてどこへでも

屋根瓦に融け 窓ガラスに融け

車のボンネットに融ける

ランドセルの黄色いカバー

女子高生の長い髪のカールの先

散歩の犬のセーターの編み目

小虫はどんどん降りては融けて消えてゆく

あまり気に留められることもなく

そう嫌がられることもなく

やがて止んでしまえば

すっかり忘れ去られてしまうのだ





痛み

寒かった

屋根には霜が光っていた

垂れ込める灰色の雲

同じだ と思った

いや でも 鳥たちがいるじゃないか と思い直した

それでも ずっと音楽を聴いていた

午後になり 少しずつ雲が晴れてくると

明るい陽射しに 気温も上がった

大丈夫だ と思った

その時がきて 防災無線が入った

反響のせいで 何を言っているかはわからない

わからなくてもわかる

僕は 目を閉じた





美しき官女

ご贔屓(ひいき)の官女は

今年も雛壇の最下段で

白黒の狆(ちん)を優雅に引く

明治生まれの官女は

女雛に引けを取らぬ程の美貌の持ち主

失われた右手首を

狆引きの紅い紐の先につけられた房で覆い

少し見返り加減に立っている

薄暗い展示室で ガラス越しの逢瀬

美しさは相変わらずだが

なんだか少し小さくなったように思えた

また来年 また 来るよ

官女の口元が少し緩んだ





にんじん

エレベーターのなかで

幼稚園帰りのにこちゃんと一緒になった

「あのね」

にこちゃんは嬉しそうな顔をしていた

「わたし にんじん食べられるようになったよ」

そうか すごいな おめでとう

「うん!!」

にこちゃんがにんじん嫌いとは知らなかったが

ご報告ありがとう





梅、咲く。

梅の花が咲いていた

横殴りの雪は雨に変わったが

まだまだ暗い雲が広がる空の下で

梅の花が咲いていた

春 だね やっと

嬉しさのなかに ちょっとだけ淋しい気持ちがある

そんな罰当たりな奴の足元を

一羽のツグミが軽やかに

ひょんひょんと跳ねてきて

あっという間に姿を消した



空耳

そういえば

年明け前からぱったりと

姿を見せぬ石焼き芋屋

ぴぃぃぃと 寒空に響く蒸気の音を

ぼんやりと思い出す

雨もなく 風もなく

寒々と夜が更けてゆく

弥生三月 もう商売は仕舞いだろう

肯定の蒸気の笛が聞こえたのは

半睡の空耳なのだろう





花。

雪はないが 花もない

雨は止んだが 風は強く

手袋の細い細い繊維の隙間から

冷たい空気がしみ込んでくる

のろのろと坂道を上ってゆくと

金物屋の小さな箱庭で

黄色いクロッカスが咲いていた

「花 あるわよ」と

花びらをぷっと膨らませて

黄色いクロッカスが咲いていた






春雨とは言うまい

濡れて参ろう というわけにはいかぬだろう

この降りの雨では

またぞろ冬の支度に着替えねば

傘を持つ手も冷えてくる





暖かな日曜

いきなりの春の暖かさに戸惑う

日陰の雪が融けて

黒々と流れ出すアスファルトの上を

薄着の子らが駆けてゆく

ぼんやりと霞む景色に

鳥たちは静まり返っている

それは

このあと降る雨があがれば

また冬に戻ることを知っているから

それを

幾度か繰り返さぬうちは

本当の春が来ないことを知っているから







ひなまつり

雛(ひいな)のまちは穏やかに晴れ

花の顔(かんばせ)輝きを増す


代々伝えられてきた者たちの

年に一度の晴れ姿

どうぞ存分にご覧下さいましな

白酒 菱餅 ひなあられ

蛤の潮汁にて ちらし寿司なぞ召し上がれ


雛(ひいな)のまちが眠りにつくと

そっと雪洞(ぼんぼり)に灯が点り

人形たちの宴が始まる





射すくめられて

満月の光に射すくめられ

凍りついているのもよきかなと

朝からの雪嵐やのちの暴風のことなど忘れ

満月の前を早足で駆け抜けてゆく薄雲と

小さな星から送られる瞬きの合図に

凍りついているのもよきかなと

あれほど

春を待ち望んでいたはずなのだが

この寒空のなかにある満月の

なにか絶対的なものを思わせる光に

まんまと射すくめられ

凍りついているのもよきかなと 思うのだ



嵐のあとに

激しく泣きじゃくる空

怒りに荒れ狂う風

不安を膨らませる雲の塊

ようやく落ち着きをみせたのは

夜もすっかり更けてからだった

空はピタリと泣き止んで

ぷぅと膨れた雲たちは

怒り疲れた風の余力で押し流されてゆく

そうしてようやく小望月が

煌々たる光を放ち

乾いた街路につくる影はきっぱりとして

明日の寒さを予感させる




春待ち

きるる の小鳥が鳴いている

ケヤキの梢で鳴いている

川辺の林は半分伐られてしまったけれど

あちらで きるる

こちらで きるる

時折 じゅいーん と鳴き出した

ここはボクの縄張りだ じゅいーん

ボクと結婚しようよ じゅいーん

梅のつぼみはまだまだ固いが

春はもうすぐ ほら そこに




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