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2018年2月

トビのToby

雪山の白を背に

工場の煙突から出る煙は真っ直ぐに

同じように白い煙は真っ直ぐに立ち上る

風に乗って旋回していたトビが

すぃーっとこちらへ向かって降下してくる

ちらりとこちらを横目でみると(そんな風にみえたのだ)

ぴぃー ひょろろろろー

美声を響かせると再び高度を上げてゆく

そうか いつもいい声で鳴いていたのは

きみだったのか




昨夜の夢

迷い道か

闇の向こうがぼんやり明るい

美容院のすりガラス越しの灯りだ

「closed」のプレートが下がっているドアが

勢いよく開けられる

白く眩しい光に満たされた店内

ここはどこ? きみはだれ? これはなに?

どこに隠れていたのか

男の子たちが七人ばかり出てくると

音楽もなしに ジェンカを踊り始める

「さぁ、きみも」

たくさんの手が伸びてくる

ひゃぁぁぁぁぁぁ


目が覚めた







おやおや、

投げ出されたすみれ色の箱から

チョコレートの粒が転がりだす

翼に黄色を隠し持つ 小さな鳥が啄ばむと

鳴くよ鳴くよ きるる きるる

もう少し暖かくなったなら

川を離れて街へ戻るよ きっとだよ

銀色のリボンを結んで 右手の中指にきゅっと結んで

そうして待っているがいい

きるる きるる きるる きるる

雪が融け出す 足跡も消えてゆく




さてさて、

少女のうしろ姿を追おうとしたとき

銀色のリボンが足に絡まり

どぅと無様に倒れたところは

水無し川の川底に積もった雪の上だ

ずっと先まで小さな足跡が続いている

猫でもない 犬でもない足跡が続いている

投げ出されたすみれ色の箱が

林の隙間からこぼれてくる細い光に照らされて

ふぅと微かなため息を漏らす




そして、

少女が差し出したのは

銀色のリボンがかけられた

小さなすみれ色の箱だった

蓋を開けても

もくもく白い煙は出なかった

中のチョコレートをひと粒口に含むと

ミントの香りが広がった




波紋

氷の融けた水面の波紋を見ていた

落とした斧は何色だったろう

もちろん 金でもなく 銀でもなく

かといって 鉄でもない

待て待て 何故落としたのが斧なのだ

斧など 今まで一度だって

自分の所持品だったことはない

ならば

この池に僕は何を落としたのだろう

わからない 思い出せない 思い当たらない

そもそも

何も落としてなどいないのかもしれない

それでも

氷の融けた水面の波紋は揺らめき続けている




いつものように

嬉しいこと 悲しいこと

楽しいこと つらいこと

いっぺんに押し寄せてきて

吃驚(びっくり) 吃驚 と しゃっくりが出て

それでも いつものように 夜は更けてゆく

小雪なんぞを散らしながら

いつものように 夜は更けてゆく




ぞわぞわ虫

少しだけ 春を感じた 陽射しが

少しだけ 胸に巣喰う ぞわぞわ虫を

少しだけ 駆逐する

いつだって 耳から入り込むそいつは

黒い霧を吐きながら 増殖する

そうして じわじわと脅しをかけてくる

春の陽射しが 有効なのかどうか

はっきりとは わからないが ただ

少しだけ 息がつけたのは 確かだ




淋しい三日月

相変わらず寒いけれど

昼間はきれいに晴れていた

けれども

今夜の三日月はぼんやりと

夜空に輪郭を滲(にじ)ませて

早々に引っ込んでしまったよ

どこか加減でも悪いのなら

すりりんご 作ってあげようか

山の陰で しくしく泣いているなら

温かい毛布を 掛けてあげよう




白塗りの雪

春想う 白詰め草の夢散らし

静かに舞う雪次第に積もりて

あたかも舞妓の白塗りのごと

板刷毛の動きは見えねども

辺り一面 白く白く塗り広げゆく





粥、ひと椀

坊さまの作ってくれた粥が

ゆるゆるとからだのなかを温めてゆく

椀を持つ手に血の気が巡る

強い北風は思いのほか体力を奪う

空腹なら尚更からだを冷やす

うまいはしあわせ あたたかいはしあわせ

小鬼は鼻をずずっとすすった




雀の実

なんという木か分からぬが

すっかり葉が落ち寒そな枝を

幾本も幾本も 天に突き出して

通り掛かりの塀の向こうに立っている

今日はどこか様子が違うと目を凝らす

すると

雀が 雀が 雀が 雀が 鈴なりだ

からだを精一杯に丸くして

団子のようななりをして

雀が 雀が 雀が 雀が 鈴なりだ




揺れ

戯れに引いた御籤(みくじ)に図星を指され

おろおろ歩いて小石につまづく

力加減を過(あやま)つ指で

細縄に結わく御籤はちぎれてしまう

どうしようどうしよう

ごめんなさいごめんなさい

竹林が風を孕(はら)んで揺れる揺れる

獅子の毛振りの如く 揺れる揺れる




女王陛下の秘密

女王陛下はね

おやすみ前のミントチョコが

お楽しみなんだって

女王陛下も

ちゃんと歯磨きするのかな




甘いお話

ああ もう と

店先に並んだ さくら餅を

いや まだ早い と見送っていた

春よ来い とは思うけれど

梅もまだまだ咲かぬのに

どうしたものか と迷ううち

やあやあ と

本日 並んでいたのは かしわ餅

いくらなんでも早かろう

戸惑う小鬼の顔(かんばせ)に

舞う舞う小雪が降りかかる


さらわれたもの

不用意に開けた窓から

びゅうと風が吹き込んで

たくさんの言の葉をさらっていってしまったのだ

あわてて手を伸ばしたけれどもう届かない

さらわれた言の葉は木の枝に引っかかっているのか

湿った地面の上に落ちているのか

さらさらと降り出した雪が

あっという間に隠してしまったから

いまきみにかけたい言葉がみつからない




感傷

通り掛かりの道の脇に

幾羽かのカラスが群がりて

毛皮の塊を啄ばんでいる

嗚呼それは

車にはねられたと思しき狸の亡骸

弔いは鳥葬のあとに風葬となり

毛の一本も 血の一滴(ひとしずく)も

日に照らされ 風にさらわれ

やがては土に還りゆき

痕跡はすっかり消し去られてしまうのだろう

その代わりに

ぽちりと小さな星がひとつ

寒空に増えたような気がしてならない僕を


下らぬ奴と嗤(わろ)うておくれ嗤うておくれ



畏(かしこ)まる

鳥居の傍に流れの速い小さな川がある

川というより水路なのだろう

遠い昔の開拓事業の賜物に違いない

あの真っ白な雪を頂く山から

幾つもの紆余曲折を経て流れ至っているのだろう

清冽な流れは水草を勢いよく洗い

迷うことなく一直線に進んでゆく

辺りに雪など微塵もみられないが

その冷たさは指がちぎれてしまいそうなほどだ

いかにもここの祭神(さいじん)に相応しい

御手洗(みたらし)川の風情である




昼餉(ひるげ)のあと

歩道の脇に寄せられた

雪の小山がきらきら光る

融けた雪で湿った広場に

陽だまりを探して雀が集う

駐車場に停めてある車では

午睡をとる男たちのなかに

まだあどけなさの残る寝顔がひとつ




美しい朝

川に沿って蛇行する真白き霧

森や林の枝という枝は

真白く儚い衣を纏(まと)いて

建物の屋根 橋の欄干 土手の草々

非常階段の手すりまでもが薄化粧

満開の真白き花をつけた桜並木は

幻想の世界へと誘(いざな)うかのようだ

凍える息は負けじと真白く

自ら樹氷となってゆく姿を想う

美しい朝

陽が高く昇るにつれて

全ては魔法のように消えていった



僕はきみに逢った

そう それは大雪になる少し前

片耳のちぎれた黒猫に出逢った少しあと

立ち寄ったコンビニでチョコレートを物色していたとき

チャイムが鳴って入ってきたヤツが

すぐにきみだと分かったよ

帽子も服装も髪の長さも背の高さもなにもかも

すぐにきみだと分かったよ

本物のきみは何千キロの彼方にいることは百も承知

それでもあれはきみだった

トローチと煙草を買ったきみは

僕のすぐ傍を通ったけれど

なんの香りもせず 何より空気が揺れなかった

うつむき加減で店を出たきみは

ドアの向こうで ふっとその姿を隠した

僕を縛っていたチカラが急に解けて

あわてて外へ追って出たけれど

きみはもういなかった

そう やはりあれはきみだった

そうだろう?





節分の夜

節分の夜も更けて
そこいらじゅうに撒き散らされた豆を
ひとつぶひとつぶ拾い集めたら
結構な量になりました

さて、どうしよう
そうだ、歳の数だけ食べるんだ
待て待て ボク何歳だか分からないよ
さて、困ったぞ

集めた豆の半分はそのままに
残りの半分は手ぬぐいに包(くる)んで
小鬼は小さな小槌でとんとん叩き始めました

こっそり雨戸を開けて庭に出ると
そのままの豆は柿の木の下に
小槌で叩いた豆は井戸の傍に
それぞれそっと撒いたのです

鳥さん鳥さん
夜が明けたら
たんとたんと召し上がれ

小鬼はカリリとひとつぶの豆を噛みました





鬼は外

ノスリは言う

おまえの指など欲しくはないわ

やがて訪れる春の日に

悔いても戻らぬ紅差しの指

早(はよ)う追い出せ 内なる鬼を

凍えて縮こまった胸に巣喰う

内なる鬼を 早う追い出せ

鬼は外 鬼は外 鬼は外

いつの日にか 福は内




寒紅(かんべに)

引き出しの奥へ 奥へと

寒紅の猪口(ちょこ)

紅差し指はもう要らぬ

ちょっこり切ってしまおうか

ノスリの餌に投げようか




十六夜の涙

凍える夜空に滲むほど

涙にくれる十六夜の月

お小姓の星たちは

目配せし合って襖を閉めた

これから雨になるのだろう

やがては雪になるのだろう




ショータイム

白く冷たい息の先で

目張りの満月は刻々と欠けてゆく

まばゆい光は徐々に広がる赤みに追われ

やがて細い細い爪痕となり 消えた


再びの満月はシフォンのヴェールの向こう側

行き場を失った光は

月の周りに大きな暈(かさ)を作る

それでも光は地上に届き

凍りつく雪の塊をきらきらと照らし出す


禍々しくも美しい 凍える夜のショータイム





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