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2017年12月

片手袋

落とした手袋に気がつかないのか

小さな紅いリボンのついた手袋は

こげぱんの色をしている

もう片方は持ち主のポケットのなかか

「ああ落ちるよ落ちるよ」

「ああ落ちたよ落ちたよ」

ふたりの声は持ち主には届かなかったのだろう

「片方だけならゴミだよね」

そんなことはない

いまにあわてて探しに来るさ

バス停のベンチの上に置きながら

そうは言ってもかえって残酷な気休めか

暮れかかる街はいよいよ冷え込んできて

僕は全く身動きがとれなくなってしまったのだ




鳥の冬

ちりちりと丸まった葉が

点々と残る楓の枝に

ふくら雀が次々とやってくる

ちょんちょんと枝を行き来して

啄(つい)ばんでいるのはなんだろう

隣の柿の木ではヒヨドリが二羽

冷えた柿を不器用そうに突(つつ)いている

青空を吹き抜ける寒風は雪をちらつかせ

かじかむ頬に容赦ない




寒い日に

餌を探して飛び立つ鳥たちの背に

またちらちらと雪が降る

そういえば

今年は石焼き芋屋を見かけない

小さな交差点脇の駐車場が定位置の

青いトラックの石焼き芋屋

秋になると必ず来ていたのだが

紅葉が終わっても姿がなく

とうとう師走も半ばになってしまった

独特の売り声と蒸気の笛の音

聞けぬままに季節は進む




雪いろいろ

みるみる積もる雪

昨日ヒヨドリが突(つつ)いた柿も

冷たい綿帽子をかぶり

モノクロの景色のなかに覗く

柿色のちらちらちらりは

あたかも斎藤 某の版画を思わせる


風が止んだ夜更けの雪は

街灯のオレンジ色の光を浴びて

ひらひらひらり きらきらきらり

さしずめ冬の蝶々たちの舞踏会か




隣のおじさん

まばらに残った柿の実に

今朝もヒヨドリが来ているよ

軒下にずらり並んだ白いシャツ

おじさん取り込まずにいたでしょう

なんだかしゃっちょこばってる洗濯物

凍っているんじゃないのかな




クリスマス・プレゼント

神様がクリスマスにプレゼントをやろうというのです
ふたつのうちどちらかひとつを選べというのです
しかもそのうちのひとつは選びようもないものなのです
神様にプレゼントはいらないと断ることは出来るのでしょうか

とりあえず、わらわらと湧いて出る羊たちを追い込んで
小屋のなかへ閉じ込めました
これでひとまず眠ることは出来るでしょう
ぐっすり眠ってプレゼントのことは忘れましょう

だいたい神様が僕にクリスマス・プレゼントだなんて
暇つぶしの気まぐれに決まっています

それでももしクリスマスの朝に
僕の部屋がしんと静まり返っていたら
神様からプレゼントをもらったか
或いは強制的に送りつけられたかのどちらかだと思って下さい




扉の夢

扉は突然に目の前に現れた
いつの間にか手にしている真鍮の鍵
ぼんやりとした闇のなかの扉に
手探りで鍵穴を探す
程なくして見つかった鍵穴に
慎重に鍵を差し込む
右か 左か
いやどちらにも動かない

そのときカチリと鍵の開く音がした
振り返ると
別の扉がゆっくり開き始めている
開けた人物を見ようとするが
何故か猛烈な睡魔に襲われ
目を開けていることが出来なくなった

すとんと闇のなかへ落ちてゆきながら
楽しそうな女の笑い声を聞いた

僕にはまだその資格がないということなのだろう




給餌

空模様を見ていた老人は
はたと膝を打ち家を出た

二町ほど先の八百屋で
りんごをひと袋買う

表面にキズがあるために
格安で売られているりんごだ

朝の青空はじわじわと雲に覆われて
いまにも「うわぁん」と泣き出しそうだ

やがてぽつぽつと降り出した雨は
案の定湿っぽい雪に変わる

小さな庭の餌台で
老人の手で半切りにされたりんごに
みるみる雪がまぶされる

朝のうちにやれば良かったな
老人の独り言が窓ガラスを曇らせた



雪は降らねど

ランドセルを背負って駆けて来た
今朝の「おはよう」は真っ白だ

家の屋根や車は
砂糖をまぶしたゼリー菓子のように
真っ白な霜でコーティングされている

ちょろちょろと流れる小川の澱みは
ぱきぱきと氷が張り
崖下の日陰の草草が纏うた霜は
昼になってもそのままだった

道行く人の挨拶は
「寒いねぇ」のひと言ばかり
身体丸めて早足で行過ぎる



新しい橋

十歩で渡れた小さな橋は
三年の月日が経ち
四十歩の橋に架け替えられた

ハグロトンボの生まれる下ノ林は
きれいさっぱり伐採されてしまい
明るくなったその場所には
ひょろひょろとした枝の
小さな紅い実が揺れていた

対岸には防波堤のような
大きなコンクリートの壁が巡らされ
水害には有効なのだろうが
つるばらのフェンスや
ひまわり畑は消えてしまった

名前をつけられた人道橋だが
なにせ「座頭転ばし」と言われる急坂を
通らぬわけにはいかぬから
人通りは相変わらず稀である

いまはなじまぬ風景も
いずれは昔を忘れてしまい
日常の風景のひとつになってゆくのだろう






風よ泣け

黄色い循環バスが遅れて通る

二両編成の普通電車も遅れて通過

ただの偶然なのだろうが

午後の診療開始も少し遅れていた

山茶花の垣根の前は花の香りがする

橋の上ではぴぃとかひゅぅとか風が泣く

耳に残るメロディーをバラバラにして持ってゆけ

胸にわだかまる言葉をバラバラにして持ってゆけ

鳥たちの餌になれ魚たちの餌になれ

最期には目に見えぬほどの虫たちの餌になろう

こうして身軽になった僕のカラダは

ひょーんと欄干を飛び越えてゆけるか

新しい景色を見ることが出来るか

風よ泣け泣けもっと泣け 泣け



見えない月に

夕方から雨になり

やはり本当の満月は拝めないのだった

昨夜あんなにでかでかと登場したのは

今夜の雨を予想したからなのだろう

雨は冷たい冷たい雨だ

忘れたと思っていたことを

またぞろ思い出させる雨だ雨




大きな満月

雲が流れる

次々と流れてくる雲は
「あいすみません。
どうしてもここを通らなきゃなりませんで。
ご容赦、ご容赦」と
大きくて立派な満月の前を
遠慮しいしい駆け足で抜けてゆく

当の満月は雲の流れなど
全く意に介していないようで
その光には一瞬の翳りもない

ただ流れ込む雲は白いのだが
満月の周りの雲は小豆色に染まっている

「不思議なこともあるものだ」
毛布に包まり足踏みしながら
寒いお月見をしている小鬼の腹がぐぅと鳴った



眠りの森

嬉しくて眠れない夜

悔しさの余り眠れない夜

怒り収まらず眠れない夜

哀しみの波にさらわれ眠れない夜

ふつふつと湧いてくる不安に眠れない夜

今夜の君はどの眠れない夜?

ああ、羊を数えてはいけないよ

ゆっくりと深呼吸して

そしたら眠りの妖精がやってくる

そっと君の手をとって

眠りの森へ連れて行ってくれるのさ



冬晴れに

紫陽花はいよいよドライフラワーの様相となり

葉を失ったケヤキの古木は青天に枝を突く

あちらこちらの紅い実はいよいよ紅く

小路を曲がれば熟柿の匂いが立ち込めているのは

勢いよく啄ばんでぽたりと落とした鳥たちの仕業



師走の風

鮮やかな散り紅葉の色褪せて

師走の風が吹く度に

さむいさむい、と身を震わせる


紅い石榴もすっかり萎えて

師走の風が吹く度に

ぶよりぶより、と微かに揺れる



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