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2017年11月

冬のバラ園

秋バラも散り
僅かばかりのハーブ草を残して
眠りについた老人の庭に
今年もトナカイが現れた

三角錐のツリー
大きな袋を担いだサンタクロース
クリスマスの電飾が次々と置かれてゆく
白い壁にはバラではなく
点滅する小さな電球が咲く

華やかな電飾にはしゃぐ子どもたちの声に
いつもは気難しそうな老人が
思わず顔をほころばせる
その季節がまた巡ってきたのだ



祈り

小春日は短く
束の間の温(ぬく)さは
早くも傾き出した陽のせいで
あれよという間に冷えてゆく

枝に残る柿の実は
いまにも溶け出しそうな熟柿となり
朝を待たずに
ぽたりと地面に落ちてしまうだろう

昼過ぎに昇った半月は
雲に閉じられたあと
つれなく沈んでしまった

この長く暗い夜に僕は祈ろう
眠れぬひとたちの為に
疲れ切った彼らの元へ
穏やかな眠りが訪れるように
僕は祈ろう



眠り姫

それは小さな水差しだった

手のひらにひょぃと載ってしまうような
小さなガラスの水差しだった

やわらかな黄色味を帯びた肌には
ガラスとは思えぬ温かみがみえた

江戸の頃のものらしいが
ほとんどなにも分かっていない

鉛ガラス製の小さな水差し

目覚めのkiss を待ちながら
薄暗い展示室のケースのなかで
彼女は静かに眠り続けている



おはじき

ガラスの小さなおはじきは

あとどれぐらい残っているのだろう

おはじきひとつ失くす毎に

オトナにひとつ近づいた

おはじきひとつ失くす毎に

ココロにひとつ闇を抱えた

そうしていつのまにか

一話完結の仕方を忘れてしまったよ



穏やかな眠り

心乱れた夜に
穏やかな眠りは訪れまい

昼間みつけた
外から内に向かって
ほんのり紅色に染まった草の葉の
なにやら恥ずかしげなその様(さま)に
少しばかりの夢を抱(いだ)いた

それはいつものように
僅かな動揺で泡沫(うたかた)の如く
弾けて消えてしまうような夢だ

心乱れた夜に
穏やかな眠りは訪れまい

次第に冷えてゆく指先が
窓ガラスの水滴をなぞり始める



流れる

流れる川の浅瀬にて
首を伸ばして水面(みなも)を覗く
背中美(うるわ)し白鷺の

流れる雲の青空を
翼をぴんと大きく広げ
航跡見事に若鳶の

流れる風の冷たさに
ほっそり上る昼の月
心細げに三日月の



青い花

歩道の片隅に吹き寄せられた

いちょう落ち葉の黄色のなかに

埋もれかけて咲いている

名の知れぬ小さな青い花よ

おまえの生い立ちも

これからの行く末も

僕には知る由もないけれど

いまのおまえを確かに見たよ

落ち葉のなかのおまえを確かに見たよ

見つけたよ




「かしや」白百合

色褪せて
いまにも剥がれ落ちそうな
「かしや」と書かれた貼り紙

おそらく二間(ふたま)ほどの
こじんまりとした平屋建て

かつては老人が
大きな犬と一緒に住んでいた
空き家になったのはいつ頃だったか

その玄関の前の草茫々のなかに
白百合が一輪咲いていた

細々とした茎が
ほっそりとしてはいるが重たげな花を支えて
寒風の揺さぶりに耐えている

老人が残した秋百合が芽吹いたものなのか
早過ぎる冬の洗礼に戸惑いながらも
懸命に咲いた白百合

「かしや」に再び灯りが点るのを
そうして待っているのだろうか



朝飯前

白い薄衣をまとった柿の実は
すっかり葉を落とした木の枝で
小鳥が来るのを待っている
いつもなら
大騒ぎの朝の筈が
今朝は一羽の訪れもない

昨夜からのこの風に
朝飯は抜くことに決めたのだろう
時折ごうごうと唸る風は
旨そうな柿の実がなる枝を
右へ左へ大きく揺すり
とても止まってはいられまい

昼過ぎて風がぱたりと止んだなら
どこからともなく現れる
小鳥の群れで賑わうだろう
朝飯抜きの小鳥たちで
さぞかし賑わうことだろう




風の音

風が出てきた

通り過ぎる車も稀になった夜更けに

パタパタとコンビニの軒下の幕が鳴る

冷え込んできた闇のなかを

低く唸りながら風が吹き抜けてゆく

ここにも雪を連れてくるのだろうか



消えたパン屋

森の入り口の
小さなパン屋を久し振りに訪ねてみますと
小さな木のドアは固く閉ざされ
小さな木の看板はペンキで白く塗り潰され
恐る恐る小窓からなかを覗いてみますと
薄暗い店内はすっからかんのがらんどう
パンくずすら落ちていないようでして

にっこり笑って迎えてくれた
白いエプロンの小さなおばあさんは
いったいどこへ消えてしまったのでしょう
あのうっとりするような香ばしい香りは
いったいどこへ消えてしまったのでしょう

うさぎの目はまた赤く染まっていることでしょう




小さな旅

小さな木の葉たちが
カラカラと音を立てて踊り始める

小さな円を描きながら
段々に空中に浮かび上がる

クルクルと回転しながら
木の葉たちはどんどん移動する

それはまるで
いつまでもどこまでも留まるところを知らぬ
アンデルセンの『赤い靴』のようだ

やがて
お寺の納屋の白壁に突き当たると
木の葉たちはパタパタと地面に落ちた

小さな木の葉たちの小さな旅は
あっけなく終わりを告げた





晩秋

桜並木の紅い葉はすっかり散れて

イチョウ落ち葉の黄色のなかに

一枚二枚と紛れていたりする

大きなヒマラヤ杉も金茶に染まり

傍らの柳の古木たちの

まだ新しい切り株の上に

そっと枝を落としてみたりする

荒天を控えて小鳥たちが賑やかに飛び交う

雨が過ぎればまた一歩

冬の寒さが寄せてくるのだろう



待ち時間

今日も橋の上に立つ
すっかりの冬支度をして
貨物列車が来るのを待っている

川縁の崖の上から
ケヤキの大木の葉が
はらりはらりと落ちては
橙色の舟となり
ゆらゆらと川面を流れてゆく

列車が通過してしまうと
すっかり空っぽになってしまうのに
きっとまた明日も橋の上に立つのだ

あともう少しでやって来る
警笛鳴らしてやって来る



アイスクリーム

熱に浮かされた小鬼は
布団のなかでずっと思っていた
バニラのアイスクリームが食べたい
口のなかで甘くとろける
冷たい冷たいバニラのアイスクリーム

氷枕を取替えにきたひとは
なにか食べたいものはないかと聞いた
小鬼は力なく首を横に振った
こんな寒い日にアイスクリームだなんて
叱られるに決まってる
だからなにも欲しくないと言った

取替えられた氷枕は気持ちよかったけれど
吸い飲みの温い水を飲まされて
小鬼はどんどん悲しくなった
おでこの濡れ手ぬぐいが鬱陶しくなった

薄暗い部屋の天井をぼんやり眺めながら
熱に浮かされた小鬼は
冷たいアイスクリームのことばかり思っていた



「金太郎」走る

雨になった
用意の傘を広げる

橋のなかほどで
「来た」と思った

雨に濡れた冷たいレールの上を
疾走する貨物列車の音が近づいてくる

いま渡っている橋と平行に架かるもう一本の橋
そのまた向こうに線路が走っている

鋭い警笛とともに「金太郎」が姿を現す
長い、長い、長い
わくわくしながら貨車を数える

独特の走行音と
再び鳴らす警笛をなびかせて

嗚呼、ああ、行ってしまった



魂鎮め

火祭りの日は
朝から時雨れていた

日が沈み
いよいよ松明に火が入ると
オレンジ色の炎と白い煙が
闇のなかに浮かび上がった

鎮魂の炎が燃え上がる
大小数多の松明は
次々に燃え尽きて
清められた魂たちは
和太鼓の音とともに
次々と天に昇ってゆく

ちろちろと残り火が囁く頃
俄かに風が吹き出して
まだ枝に残る紅葉や
落ち葉をも巻き上げて
今昔の魂たちの介添えと為すか

風はやがて大風となり
一晩中吹き荒れた

鎮まらぬ魂

思えばここにもひとつ残っている





みて…

イチョウの落ち葉は黄色い絨毯
ひとひと歩いて池に出る
真っ赤なもみぢは枝を伸ばし
姿見代わりの水鏡

「みて」

八重桜の葉は既にない

「みて」

足元から聞こえてくる

「ここ」

振り返った足元で
紅く染まった紫陽花の葉が微笑む

「やぁ、きれいに染まったね」

紫陽花の葉は冬の陽を浴びながら
恥ずかしそうにふるると揺れる






賑やかな風

思わず顔を背けた北風に

プラタナスの落ち葉は

カラカラと音を立てて転がってゆく

祭りを知らせる幟旗も

一斉にバタバタと音高くはためく

ランドセルの子どもたちが

きゃあきゃあ言いながら駆けてゆく

空をゆくたくさんの鳥たちは雁だろうか

祭りの太鼓の音が聞こえてくる

今年は雪が降らなきゃいいが




七五三詣り

大安吉日
又三郎が駆け抜けた参道は
落ち葉掃きが間に合わず
イチョウの黄色がまぶしく光る

両親に手を取られた幼子は
紅い着物でよちよち歩く

「おめでとうございます」
「まぁ、ありがとうございます」

当人だけが不思議そうな顔をして振り返る



カメムシ

非常階段の端っこに
小さな黒っぽい虫を見つけた
カメムシの仲間だろうか

右側の横っ腹を下にして
少しばかりねじれたような
奇妙な格好をしている
鳥にでも突かれたのか

よく見るとか細い脚が
小刻みに震えている

突然虫が喋った
「あぁ、ご心配には及びません。
じきに飛べるようになりますから。
お急ぎなんでしょう?
ささ、どうぞどうぞお出掛けになって下さい」

すっかり日が暮れてしまってから
ふと思い出し、非常階段へ行ってみる
見つけたときと全く同じ格好のままでいた
違ったのは
震えていたか細い脚が宙で固まっていること

「おおぃ…」
恐る恐る掛けた声は夜気に吸い込まれてゆく
虫を照らす蛍光灯がまるで引導を渡すように
一瞬切れてまたついた



立冬

ケヤキの落ち葉の結界に

身動きがとれなくなった僕の周りを

時間だけが淡々と流れてゆく

オレンジから真っ赤に色変わりした

ピラカンサスの実が目に痛い



白い朝

白い景色のなかで

屋根はしっとりと濡れていた

柿の木の葉は皆くたりと垂れて

「おはよう」も白い息となる

立冬の前日に氷点下の朝を迎えた

窓ガラスについた水滴が

つつ、と流れる

やはり白鳥は冬の使者なのだ



渡り

白鳥たちは

暮れかかる夕空に

黒いシルエットとなる

V字編隊を組み

すっかり日が沈んでしまわぬうちにと

先を急いでいるようだ

既にねぐらは決まっているのか

一糸乱れず飛んでゆく

おかえり

冬の使者たち



目隠し鬼

鬼さんこちら 手の鳴る方へ
鬼さんこちら 手の鳴る方へ

嘘だ嘘だ
誰も手なぞ鳴らしておらぬ

声も出さずに遠巻きでいる
口に手を当て息を殺し
肩を震わせ
互いに見合わせ
くくっと笑う

目隠し鬼が手を差し出して
うろうろするのはさぞ楽しかろう
右も左も分からずに
沈黙の闇でもがいているのは
何をさておき楽しかろう

目隠し鬼が堪らずに
「声を出して」と半べそかけば
どっと笑い崩れる腹だろう



月夜

明日は雨かもしれぬから
満月手前の十五夜を
そっと眺めて過ごす夜

昼は見事な晴天ながら
日暮れ時には湧き出る雲、雲
気を揉み何度も確かめるうち
幸い雲は薄雲となり
冷えた空気に冴え冴えと
輝く月の美しさ

「寒い」とからだを丸めたのは
凄みを増した月光に
心の奥を透かされぬため
いざとなったら臆病者の
ひとり月見の夜が更ける





憧れて

秋晴れの小道に香る秋薔薇は

黄色の葉っぱをしゃらしゃらつけて

天に向かってグンと手を伸ばす

イチョウの古木に憧れて

ううん、と背伸びの力が入り

花びらのピンクが濃くなりました




十三夜

主(あるじ)無くとも庭の木々
それからそれへと色づいて
池の水面に錦を映す
たわわな実りの柿の木に
ヒヨドリたちが声上げる

かつては月見もしたろうに
屋敷の雨戸は閉ざされて
「曇りなし」の十三夜
今宵は雲に阻まれて
朧(おぼろ)に浮かぶ後(のち)の月

森閑とした夜の庭
月の光もままならず
昼の賑わいはどこへやら
石灯籠も凍え出し
落ち葉もひっそり眠りつく




小鬼のハロウィン

僅かな朝の兆しを感じて
ぎゃぁぎゃぁと魔物たちは去り始める
魔女たちも次々と箒を手にする

耳の尖った美しい妖精の子が
小鬼の手首を摑む
「さぁゆこう。もうすぐ日が昇るぞ」
「僕は行かない」
「夜が明けたら黄金の雨が降るんだ。
そしたら僕たち跡形もなく消えてしまうんだぜ」
「知ってる」
「じゃぁなぜ」

「楽しかったよ。ありがとう。さよなら」
妖精の子は小鬼の手首をそっと離すと
哀しそうな目をしたまま
明るみだした空へ浮かび上がると
「さよなら」の声を残して去って行った

その行方を追う小鬼を覆い隠すように
黄金の雨が降り出した
しゃらしゃらと音を立てて
きらきらと目も開けられぬほど輝いて
黄金の雨が降り出した
戻り損ねた魔物たちが煙となって消えてゆく

万聖節の朝が来た
小鬼は大きなイチョウの木の下で
黄色い葉に埋もれていた
「僕はあの子たちとも違ったんだな」
そうして
イチョウの葉はなんて冷たいのだろうと思った






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