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2017年9月

秋の香り

ああ、と気がつき

辺りを見廻すと

板塀の向こうから

金木犀がクスクス笑っていた



小菊

四辻の角にある
老夫婦の営む青果店は
彼岸ともなれば忙しい

店の片隅に並べられたたくさんのバケツ
それぞれに小菊の束が入っている
墓へ参る人々が足を止め、自転車を止め
バイクを止め、車を止めては
小菊の束を買ってゆく
高級車で乗りつけた初老の紳士は
バケツ丸々三つ分お買い上げだ

普段の商いからすれば
めまぐるしいような回転なのに
老夫婦はいつものペースで悠々と
小菊の束を売っている



早起きの月はとうに姿を消してしまった
色づき始めた柿の実を
冷たい秋風が撫でてゆく
暗闇の空に秋虫の声が吸い込まれる

銀河を行く列車は見えないか
「銀河ステーション」の声が聞こえてこないか
目を凝らし耳をそばだて夜(よ)が更ける

不意に貨物列車の鋭い警笛が響き
我にかえるとくしゃみが出た



美しい網

もの言わぬ迫力の美しい網

みるみる垂れ込める雲の隙間から洩れた

僅かな光をその網に集める

女郎蜘蛛は黄色と黒のからだを怒らせて

闖入者を追い返す

「さっさとお帰り、じきに雨さ」



橋の上で

ぎゃあぎゃあと
川べりの森のなかで
鳴き交わしている鳥たち

そんな喧騒に頓着するでもなく
無数のトンボたちは
緩やかに流れる川の上を
悠々と飛んでいる
秋晴れにしては少し痛い陽射しを浴びて
翅(はね)や胴体がきらりと光る

「今日はなんやら暑いわ」
橋の真ん中辺りにある腰掛けで
煙草をふかす老人がひとりごちる

知らぬ同士で水筒の麦茶を分け合い
曖昧な季節の風を受けながら
橋の上でぼんやりと時が流れてゆく




翅(はね)

薄茶色の翅(はね)を持つ一匹の蛾が
ぱさぱさとひっきりなしに翅を動かしている
嵐を避けて飛び込んできたのだろう
窓の下のコンクリートの壁の前で
難を逃れた蛾は休息をとり
再び雨上がりの空へ
飛び立とうとしているようだった

しかし
風が止むと翅の動きはぱったりと止まる

翅は吹き返しの風で動いていただけだった




儀式

不気味なほどの静けさのなかで

嵐を待ちながら

かつてうっとりと聴いた旋律を流す

それは小さな棘を幾つも放ちながら

部屋のなかを対流する

熱を帯びたからだに

小さな棘は際限なく突き刺さる

これはいったいなんの儀式か

明け方を目指して更に夜は進む

嵐の予兆を孕(はら)んで夜が進む



過ち

ひらひらとからかうように
飛び廻る小さな蝶
白い翅(はね)にオレンジ色の紋をつけて
あちらこちらと飛び廻る

一枚の大きな葉に降りた蝶は
しばらくしてから
ゆっくりとその翅を開いてみせる
現れた彼の表の翅は
なんとも美しい青紫色をしていた

ふと思った
雨の日はどこにいるのだろう
嵐の日はどうしているのだろう
そんな僕の心の動きを察したように
彼はひらひらと離れていった



水占(みずうら)

川の流れのなかほどに

すっきりと立つアオサギは

何を見ている何想う

黒い冠羽(かんう)を風に震わせ

何を見ている何想う



思案

折からの大風に

枝垂れる萩は右に左に揺さぶられ

紅紫の小さな花が

必死に枝にしがみつく

咲き終えて

足元に散り積もった萎れた花は

下草の上を転がされる

この風では

蜜を吸いに来る蝶たちも難儀をしていることだろう

紅紫の蝶のような花は

風に翻弄されながら思案に暮れる





月と梨

月の出を待ちながら

カシャ と梨にかじりつけば

甘い気持ちがあふれて出て

昼間橋の上で出会った見事な白髪のご婦人の

なでしこ色の口元がひょぃと思い出されて

今日はなんだかくすぐったい日だったと

BGMを奏でている虫たちに

話しかけたくなる下弦の夜



五分(ごぶ)の魂

すこぅし色づき始めた青柿の下で

まだ日の暮れぬうちから

秋虫たちが鳴いているよ

土蔵の脇の日陰の草むらのなかで

待ち兼ねたように鳴いているよ

それはふっつりと声の途絶えた

ツクツクホウシへの鎮魂歌

すっかり暮れた夜空に向かい

鳴くよ秋虫鳴くよ秋虫



独り言

雨が強くなった

虫の声はもう聞こえない

「オメデトウ」のつぶやきは

ポロリこぼれて

床の上を転々とし

壁に当たって砕け散る




夏の戻り日

さやさやと風になびいていた緑は
頭(こうべ)を垂れる稲穂を抱いて
黄緑から黄色に変わりつつある

その間からひょっこり顔を上げる白鷺や
電線の上から様子を窺う烏
どこに隠れていたのか
一斉に飛び立つ雀たち

夏が戻った日は暑く
稲田の案山子もいささか困惑顔
青い空がまぶし過ぎるよ、と



変わりゆくもの

今年は雨とは無縁そうな秋祭り
合図の花火があがると
どどん どどん 
祭り太鼓が聞こえてくる

時折マイクを通したような声がするが
神輿が出るのは明日だけだろうか
子ども神輿も見かけなかった
それでも街はざわつき
迂回で車はごちゃついている

夜更けを待たずに
祭りの気配はなにも感じられなくなった

秋虫たちがやけに声高に鳴いているだけである



秋空

あれほど見事な青空が

すっかり雲に覆われて

見上げる夜空に月はなく

どこへ向かうか最終便が

紅い光を点滅させて

はるか高みをゆくばかり

秋虫歌うは わかれうた

サヨナラサヨナラ またいつか

二度となくとも またいつか



秋の訪(おとな)い

「白露」と告げられた朝は

注意報が出るほどの濃い霧に包まれていた

霧はやがて霧雨となり小雨に変わり

色づき始めた木の葉や

ぽちりとついた紅い実を静かに濡らしてゆく

少し下がり過ぎの気温に

幼稚園や学校の夏服が寒々しい

日暮れてくると太鼓の音が遠くに聞こえてきて

神社の秋祭りが近づいたことを思い出させる



やんごとなき月

雨は朝のうちに上がったが
厚い雲はみっしりと空に居座り
それは夜になっても続き
満月だというのに
ひと筋の光さえ洩れてはこない

秋虫たちは一段と声を高くし
盛んに満月を呼ぶが
重い緞帳(どんちょう)のような雲は
このまま明日の雨まで動かぬつもりのようだ

きっと今頃は
都におわすやんごとなきお方のところへ
その姿を現しているのであろう



不穏

アメンボたちは
漂う枯葉や千切れた枝葉を避けながら
緑に濁った池の面(おもて)を滑り行く

いつもなら
池に架かる小さな石橋に立つと
どこからともなく現れて
ぱくりと口を開ける真鯉たちが
幾ら待ってもいっこうに姿を見せない

手水舎の一枚ぎりの手ぬぐいは
やはり泥をつけられたまま
どこかしょんぼりとした風情で
ゆら、ゆら、と揺れている




短い旅

テレビのない待合室に流れるクラシックの調べ

それは診察室にも処置室にも

低く静かに流れている

寝台の上に仰向けになりじっと耳を澄ます

ヴァイオリンの音は水の流れのように

くるくると渦巻き或いは澱み

急流が岩にぶつかり砕け散れば

ゆったりと流れる大河に続く

目を閉じるとすぅっとからだが吸い込まれてゆく


終了のアラームにびくりとして目を開ける

短い漂流の旅の終わりだ




蝉やら蝶やら蜻蛉やら

秋晴れの空に向かいて鳴く蝉の
響けや響けどこまでも

蜜を求めてひらひらと
花を探して舞う蝶も
翅(はね)を休めた葉の上で
なにやらしばしもの想う

つぃーつぃーと小気味よく
あちらこちらと飛ぶ蜻蛉
蝉鳴く声が響く空
なにを想うて裂いてゆく





ココロとカラダ

ココロの痛みは延々と言葉を紡いでゆけるけれど

カラダの痛みはその言葉を生むことさえ拒む



面倒なこと

ぴちゃぴちゃ音がすると思ったら

雨が降り出していた

昼間、久し振りの青空だったのに

結局は毎日どこかのタイミングで

雨が降っている

雨が嫌いなわけではないけれど

気の滅入ることに遭遇すると

その気分が増幅されることが儘あるから

そうなるとちょっと面倒なのだ

イヤホンのボリュームを少しだけ上げる

あとは…どうかな




ハンデ

終わりの始まりのとき

既に数歩先にいたひとは

どんどん歩数を延ばし

いまとなっては

影の尻尾さえ摑めないところまでいってしまった

変わり身の早さを告げながら

その実(じつ)そこから一歩も動けないでいる僕は

増水した濁流のなかに立つ

頼りない一本の潅木(かんぼく)に似る



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