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2017年8月

ままならぬこと

雨だれのようなピアノの音に
そっとギターがつぶやいている

外は雨だ
ずっと雨だ
明日も雨でその先も雨らしい

蝉の声もめっきり減って
弱々しく聞こえて仕方ない
秋虫までもが今夜は静かだ
小鳥たちはどこへ行ったのか
散歩の犬には出会うけれど
猫の姿は見当たらない

窓の遠くに見える白い花は
ムクゲではないかと思うのだが
確かめたいのに行けないもどかしさ
ドアの前で片足もがれ
横たわるカマキリはまるで僕だ

雨だれのようなピアノの音は続いているが
「もうそろそろ眠るがいいよ」
ギターがそっとつぶやいた



思わぬ夏

朝っぱらからミサイルが飛んだ日は

いきなり暑さが戻ってきて

本日は真夏日なりと

秋物を物色していた手を困惑させる



虫博士

街灯の下をぶんぶん飛び廻る虫を見上げていた

通り掛かりの少年がいう

「カブトムシのメスだよ」

「そうか。なるほどメスだ」

「うん。そうだよ。間違いないよ」

少年はちょっと得意そうな顔をした

その顔に幼い頃の弟をみた

野球帽をかぶった頭をぎゅぅと抱き寄せて

「えらいぞえらいぞ」といってやりたくなった



くらり

くらり とゆれて

暗がりのなかへ

四散してゆく音を追って

思わず手を伸ばす

けれど今夜はもうあとは追えない

くらり とゆれたら

眠る約束



花火の夜

朝方のにわか雨が
すっきりと洗い清めた街の夜空に
次々と打ち上げられる花火たち

日中鳴いている蝉よりも
短く儚いいのちの花
一瞬にして咲き誇り
人々の上げる歓声に包まれて
闇に消えてゆく光の花

やがて喧騒が去り
いつもの静かな夜に戻ると
秋虫の声が耳に戻る

浴衣の裾から
そそらと忍び込む夜気が
夏の終わりを告げてゆく




ひまわりたち

朝の歩道にランドセルが帰ってきた

夏休みの思い出をぎゅっと詰めて

ぱたぱたと駆けてゆく

幼稚園バスも動き出した

リボンのついた小さな麦藁帽子が

バスの窓辺で揺れている





ひび割れ

海に行きたい

ただ海を眺めていたい

水平線にぼんやりと見える島影や

ゆっくりと進んでゆくフェリーや貨物船

ずっと手前の小さな魚釣り舟

ゆらゆらと揺れる海

岩場に寄せては砕け散る波

音、音、匂い、匂い

少しべたつく潮風に吹かれ

ただ海を眺めていたい

もうカラカラなんだょ





虫の声

蒸し暑い処暑の日が暮れて

辺りはすっかり闇のなか

ひやひやと秋の空気が忍び寄る

数を増やした秋虫の声

眠れ眠れの子守唄




拒む

一匹の蛇がスルスルと

池の縁石の上を滑り

垂れ下がる細長いつる草をかいくぐり

それぞれが絡み合うような

深い草叢のなかへ消えていった

「ここにはおまえの探し物はないよ」

そういうことなのだろう

僕は道を引き返した




ちび猫

青い車の下が

今日のお昼寝の場所らしい

ちびの黒猫

すぐ傍を通っても

面倒そうに片目だけで

僕を見上げた

そうして

にゃぁとも言わず

またピタリと目を閉じて

夢の世界へ戻っていった



断。

なんのためでもなく
誰のためでもない
強いて言えば自分のためか
当然なんの役にも立たず
誰の役にも立たず
そんなものを書き散らしてなんとすると言われれば

返す言葉はない



やませ(山背)

おひさまをみたのはいつだっけ

おつきさまをみたのはいつだっけ

あついくもやうすいくもがいりみだれては

あるときはしょぼしょぼと

またあるときはざあざあと

あめをふらせてばかりいる

よるはぴたりとまどをしめないと

さむくてかぜをひいてしまうよ

たんぼのかかしははんべそがおで

しめったそらをみあげては

いくどもためいきついている



白。

ロビーの壁にかけられた大きな絵には

昔々のかやぶき屋根の家

その軒下に吊るされた幾本かの

大根の白い肌のまばゆさに驚く

画面の端に描かれた

軍人の乗る白馬にも劣らぬ

その輝きに目を奪われて

順番を告げる声を危うく聞き漏らすところだった




夏の帽子

昼間は必死の蝉の声も

夜には秋虫たちにとって代わられ

やはり季節は移ろいつつあり

壁に掛けられた夏の帽子が

寂しげにみえるのは

持ち主が二度と戻らぬことに

薄々気づいているからなのだろう



埋葬

刻々と時は流れ

あたふたと日々を過ごしている自分に

到底おまえを思い出す暇などない

毎晩そう自分に言い聞かせている男の哀れ

いやそれとも

きれいさっぱり忘れてしまいましたと

平気の平左のお面をつける女の哀れか



濡れ鼠

昨夜からずっと降っている雨なのに

どうしてあのひとは傘を持たずに歩いているのだろう

この冷たい秋雨のなかを

足を速めるでもなく黙々とただ歩いてゆく

バス停にある貸し傘や雨宿りの庇(ひさし)にも目もくれず

いったいあのひとは何処へ行こうとしているのだろう



黙祷

心のなかで

静かに鈴(りん)を鳴らそう

無念纏(まと)うた魂の為

百日紅の花の下で

静かに鈴(りん)を鳴らそう



失われた灯り

雨が降り出して初めて

交差点の街灯が一基消えていることに気づく

雨脚の強さを

あの柔らかなオレンジ色の灯りのなかに

確かめていたのだが

それに

あの灯りを求めて集まっていた

小さな虫たちはどうしたろう



道しるべ

街路樹の足元に

植え替えられたサルビアは

紅い紅い道しるべ

甘い蜜と少しの毒で

何処へ誘(いざな)う紅い花



立秋過ぎて

ツクツクホウシも混じる蝉の声に

色を変えかたちを崩した紫陽花たちが

じっと聞き入る雨上がり





手ぬぐいの行方

手水舎の柱に小さな貼り紙があった

「もしここに手ぬぐいがないときは
私たちの悲しみが深まったとお察し下さい」

細く小さな文字が悲しみに震えている傍で

一枚になった手ぬぐいが

やはり泥をつけて風に揺れている

季節を楽しませてくれた手水舎の手ぬぐいは

もう二度と見られなくなってしまうのだろうか



闇の効用

どんなにちっぽけなため息も

寄せては返す波のような憂いも

ぎゅっと噛んだ唇の端からすり抜けた泣き言も

深い夜の闇はきれいに吸い取ってくれる

まるで吸い取り紙のようにね

そうしてきみを眠りに誘うのだろうよ



ないしょの桃

「にこです!」と
いつも元気なにこちゃんが
今日は様子がちょっと変
「に・こ・で・す…」
ないしょ話をするような
ささやき声でやってきた

「これ、おすそわけです」
「おしゅしょわけ、でしゅ」
妹のみこちゃんまで
ないしょないしょの小さな声

大事そうに抱えた籠のなかには
立派な桃がみっつある
ああ、そうか
「そっと持ってゆくのよ」
そう言われてきたんだね

ありがとうありがとう
おつかいごくろうさまでした
おかげでおいしい桃が頂けるよ




嵐を待つ

鳴き急いでいるかのような蝉の声も
やっと吹き出した夜の風も
突然ピタリと止んだ
嵐の前の静けさというものだろう

重く湿った空気に
次第に支配されてゆく部屋

厚さを増した雲の隙間から
ちらりと覗いたほぼ満月

やがて雨は
結構な音を立てて降り出した



逢瀬

火曜日はおそらくひどい雨降りで
到底逢いには来れまいからと
厚い雲を押し退けて
姿をみせたその月は
満月といってもいいほどの
美しいかたちと輝きを持ち
灯りを消した部屋の床に
窓のかたちを切り取り照らす

徐々に冷えてゆく空気のなかで
きみの光を浴びながら
さぁて、なにから話そうか



気まぐれ

やはり夏は終わったわけではなかった

一時的な気まぐれの秋を過ごしたあとの

真夏の暑さは汗となって流れ落ちる

深い霧に閉ざされた朝の光景が

まるで嘘のように

色とりどりの小さな木の実は

夏の光にピカピカ光る

昨日までの

あの肌寒いぐらいの風は何処へ行ってしまったのだろう



ソーダ水の夢

あかいソーダ水に憧れて

いつか

アイスクリームを浮かべた

あかいソーダ水が

銀のお盆に載せられて

自分の前に運ばれて来るのを

うっとりと夢見ていた



夏の少年

池の端まで来たとき
プール帰りらしい少年が
坂を下りて来た

「こんにちは!」
ちょっと驚きながら僕も返す
「こんにちは!蒸し暑いねぇ」
「平気です!」
少年は日焼けした顔でニッと笑った

ああそうだ僕にだって
平気だった頃があったはずだ
いつどこに置き忘れてきてしまったのだろう

すっかりの曇り空なのに
遠ざかってゆく少年のうしろ姿が
途轍もなくまぶしいと思った




遅い梅雨明け

髪を切ったら梅雨明けた

かなかな蝉が鳴いている

涼風立って夏カーテンも

ちょぴりその身を竦めてみせた

梅雨が明けたら秋が来た



真白き花(ムクゲ)

真白き花のサヨナラを

緑の苔が抱き留める

小さな傷もつけぬよう

そっとそっと抱き留める




滲(にじ)む月

ビルの上にかかる半月は

ノウゼンカズラのオレンジ色

雨の予報もないのに

じくじくと滲(にじ)んでいる

日付が変わる頃には

すっかり姿を消してしまったが

思えば

滲んでいたのは月ではなく

眺めている自分の方だったのかもしれない



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