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2017年7月

こわれもの

いつかは こわれるものだ

一瞬にして砕け散り
血だらけの手に細かい傷をみるか

それとも

徐々に端から融けてゆき
なにも残っていない手に闇をみるか

ほんとうはどちらでもない

こわれるのは 自分だから
なにもみることはできないのだ、よ



雨音

雨は
強弱をつけながら
一日中降り続く

雨は
梅雨入り中だったことを
突然思い出したように
いつまでも降り続く

川はすっかり濁り
水かさを増して
勢いよく流れる

雨音は

雨音が

静かな眠りを妨げる



美しい航跡

そよとも揺れぬ青田の上を

自由自在に飛び交うツバメ

重苦しい曇天の下で

近づく昼餉の支度であろうか

空(くう)を切り 翻る

躊躇など微塵も感じられない

なんと美しい航跡であろう



手水舎で揺れている三枚の手ぬぐい
どれも茶色い泥で汚れている

十日前も汚れていた
一週間前も汚れていた
三日前もそのままだった
今日もやはり汚れたままだった

今までにないことだ

作法に従って
手水で清めた後は
ゴソゴソと自分のハンカチを取り出して拭いた

蝉の声は空しく
小鳥の声は哀しく響いた



つれない月

薄紅(うすくれない)に染まる夕空に
早くも月が上っている

鉄筆で書いたような
細い三日月が従える雲は
薄墨をたっぷりと含ませた筆先の
軽い調子の重なり合い

やがて辺りが影になり
薄紅が金茶に変わる頃
細い月は輝きに鋭さを増す

早起きの月は
寺の打つ九時の鐘も待たずに
闇に沈んでゆく

消化不良の想いは
ブルーライトに照らされて
居場所を求めて這い廻る



懸命な朝

非常階段
バサバサと羽ばたきの音を残して
湿った空へ去りゆく翼

コンクリートの踊り場に残された
ほぼ完全な片羽と
おそらく対であったろうもう一枚の片羽の
撒き散らされた細かい破片

他には
細い細い一本の足
長い長い一本の触角
少な過ぎるピースに
元の姿は想像できない

それぞれに 懸命な朝



雨の公園

だぁれもいない公園は

ただただ雨に濡れている

揺れぬブランコ

濡れるシーソー

滑る子のない滑り台

大きな大きなヒマラヤ杉も

しょんぼり立ってる 雨の午後



愛宕さま

降り止まぬ雨を散らす様(よ)に
どどんと花火が打ち上がる
さぁさ、祭りのはじまりはじまり
愛宕の山の神様の
年に一度のお祭り日

雨に濡れてる急な石段ゆきましょか
それとも細いだらだら坂を
ぬかるみ避けつつゆきましょか

道々下がる提灯の灯が
雨のせいだか頼りない
心細げな子の足元を
そっと照らすはほおずき提灯
ニッと笑った小鬼の仕業

ふたり仲良く傘さして
目指すは頂上愛宕さま
なにをお願いするのやら

雨も少しはその降り方が
やさしくなった祭りの夜



Good Goodbye

非常階段の踊り場に
蝉が一匹横たわる
もう逝ってしまったのか

きみはどんな声をしていた
どんなうたをうたっていた

知っているよ忘れないよ

きみは最期になにをみたのか
きみの瞳にはなにが映っていたのか
唇から洩れた最期の言葉は…

逝ってしまった 僕らの Chester 











※7月20日、アメリカのロックバンドLinkin Parkのボーカル
  Chester Bennington が亡くなりました。41歳でした。

南風

南風に揺れる電線は

時折ひゅんと跳ね上がる

キジバトは

電線の動揺に逆らうことなく留まり続ける

そうして

朝からぐずって泣き止まぬ幼子の声を

じっと背中で聞いている

身じろぎもせずに聞いている




待ちわびて

今夜の風は湿っている

雨の匂い?

いや、朝霧の気配か

寝静まった空に響く貨物列車の通過音

鳴らされる警笛の音が少し重い

空のグラスで氷が滑る

昼間焚いた香がふぃと鼻先を掠める

遅い月が上るまであと一時間、か




月待ちの風

日が傾くにつれて
心地良い風が
部屋中を駆け廻り逃げてゆく

レースのカーテンを吹き上げ
壁掛けのカレンダーを揺らし
うっかり置き忘れた
幾枚かのメモ用紙を辺りにばら撒いて

すっかり日が沈むと
風の心地良さに肌寒さを覚える
少し雲が出ているせいもあるが
今夜は星も瞬かない
二十幾日目かの月に至っては
お出ましは午前様だ

ベランダで風に吹かれながら
暗い空を見上げ
月待ちでもしようか
もっとも
懸命に掛ける願もなくなってしまったけれど



雨のもたらすリボン

小鳥の声で目覚めた朝は
夜更けて雨が降りました
サーッという音の雨は
乾いた土の匂いを立てて
塵や埃を洗い流してゆきました

耳ざわりのよい雨音は
いつしか子守唄がわりとなって
ゆるゆると眠りのなかへ
誘(いざな)うかのようでした

このあとしばらくして
激しい雷雨になるとは思いもせずに
眠りの柔らかいリボンに
くるくると巻かれてゆくのを感じていました



コシアキトンボ

カメ吉が消えた濁り池は
今や真鯉とアメンボの天下になった

そこへつぃーとやってきたのは
コシアキトンボだ
空梅雨が明けたのかどうかもわからないが
コシアキトンボはちゃんとやってきた

からかうように
僕の目の前を数匹が自在に飛び廻る
嬉しくなったけれど
今年ハグロトンボを見ていないことに気づく

出会えなくなるものたちが
少しずつ増えている
消えてゆくものたちが
少しずつ増えている

鎮守の杜で
蝉が一斉に鳴き出した



緑の風

紅紫の紫陽花に囲まれ
坂の途中の池を見下ろす

焦げそうな陽射しを浴びた
二羽のカモが浮かぶ水面に
数多の枝や葉を揺らし
森を抜けた風が波紋を作る

蝉の声する緑の森で
清められたその風は
奇跡のように心地良い

風よ風よ風よ
僕の心も抜けてゆけ
遠慮はいらぬ抜けてゆけ
そしたら僕も
幾分軽くなるのだろうから



ねんねんねむの木

ねんねんねむの木
刷毛の花
薄いピンクの刷毛の花

おしろい仕上げの頬紅を
彼方(あなた)此方(こなた)の艶めく頬に
さっとひと刷き致しますれば
今日の仕事はもう仕舞い

ねんねんねむの木
日が傾いて
そらもう葉っぱが閉じてゆく

ねんねんねむの木
おねむの時間
お先に失礼、おやすみなさい




出会い

新しい水門をつけられた池に
カモたちが戻っていた
時折逆立ちをしては
かわいいお尻を水面に出している

梅林へ向かう急な坂道を
ハクセキレイが一羽
尾っぽを上下に振りながら跳ねて行く

今年
まだホトトギスの声を聞かぬことを思い
池の端の薄暗い細道を下る

するとどうだ
日陰に咲くガクアジサイの群れ
白い蝶のような花々の
なんと涼やかなことか

汗を拭うのも忘れて立ち尽くす耳に
遠い雷が雨を告げる



月の光、雨の匂い

隣家の姉妹の
幼い歌声が途絶えた
月はまだ上り切っていないが
もうおねむの時間だろう

日中の生温かい大風は鳴りを潜めたが
空気が動かず少しばかり息苦しい
月が中天にかかる頃
やっとひんやりとしてきた空気が
微かにレースのカーテンを揺らし始めた

月はといえば
満月より欠けた姿だが
その煌々たる光は衰えていない

但し今夜はその月の前を
次々と黒い雲が通り過ぎてゆく
なんとも素晴らしいスピードで抜けてゆく

灯りを消した部屋のなかは
その度に明るくなったり、闇に沈んだり
まるで映写機を廻しているようだ

ああ、

雨の匂いがしてきたよ



このまま

少しばかりの涼風をお供に

十六夜の月が上る

その輝きは満月に劣ることはなく

灯りを消した部屋の床に

窓の形をくっきりと描き出す

こうしてまた飽くことなく

いつまでも月を眺めては

夜更かしをしてしまうのだろう



夏の満月

緑色の蚊帳(かや)のなかで
幼い弟や従弟(いとこ)たちが
寝苦しそうに何度も寝返りを打つ

うちわで風を送りながら
ちりとも鳴らない風鈴を眺める

まばゆい満月に照らされた
縁側の蚊取り線香の煙はたなびくことなく
静かに夜は更けてゆく

こくりこくりと舟を漕ぎ
取り落としたうちわをあわてて拾い上げる

祖父の家での遠い夏の夜…




小望月を浴びる

開け放した窓の外

煌々と照る小望月に

旅支度の手がはたと止まる

そうしてここでこのままで

せっかくの光を浴びることにした

夜が明ける寸前まで

うつらうつらと浴びることにした





七夕の月

ああ、いけないよ お月さま

あまりにあなたが美しく

夜空にうっとり輝くものだから

七夕のおふたりさんは気後れして

雲の向こうに隠れてしまったよ



流れ

雨が濡らす石の碑は
橋のたもとの『宵待草』
待てど暮らせど来ぬとんぼ
石の欄干に身を預け
川の流れを慰めに
どれほど待っていたろうか

かつての栄華がほのみえる
崩れかけた古宿は
すっかり草に覆われて
時の流れに朽ちてゆく

かつてのきみと同じ様(よ)に
儚く消えた小さな夢が
川の流れに揉まれながら
どんどん遠ざかってゆくさまを
懐手をして眺めている



風と月

降り続いた雨も上がり
恵みの水に緑を濃くし
背丈も伸ばした稲の上を風が渡る

さわさわと音を立てて
稲は次々とお辞儀をする

風は汗ばんだ額を撫でて
短い髪のなかをも通り抜けてゆく

だが、
その風は夜に入ってピタリと止んだ
空気は少しひやひやとしているけれど
もうどこか遠いところへ行ってしまったらしい

夜空となって
昼間の熱もとれたのだろう
二、三の星を従えながら
夜廻りを終えようとする月が
やけに眩(まぶ)しく見えるのだ



朝の小鳥

雨が残る川縁(かわべり)の

濡れた小石を小気味よく

尻尾を上下に振りながら

小さな鳥が跳ねてゆく

枝垂れた草を啄(つい)ばんだり

石の隙間の暗がりに

小さな頭を突っ込んだり

朝餉(あさげ)の時間とお見受けするが

それより先は滝壺なるぞ




雨の宿

川に乗り出すように繁るもみぢ葉に
ぽつぽつと雨粒が跳ねる

やがて雨は激しくなり
粒から棒に変わる

もみぢ葉は抗うことなく
棒の雨が流れるままにうつむいている

五段の滝を経た流れは
雨を得て少し勢いを増したようだ

灯りの消えた部屋の隅で
真新しい白い手ぬぐいがぼぅと光る

川音は次第に遠のき
自らも一枚のもみぢ葉となり
夢のなかへくるくると流れ込んでゆくのだった



夜明け

蓮の花

夜明けとともにゆるゆるとひらき

葉の上の露玉はころころと

小さな光を反射して

おはよう、と囁くよ



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