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2017年6月

白い蝶

白い蝶と見間違えた

白い斑入りのガクアジサイの葉

花の季節を迎えたなら

白い蝶はひらひらと

葉から花へとお引越し

哀しい恋の話が伝わる

”恋路が浜”の名をつけられて

その白さは尚のこと

痛いくらいに目に、胸に

じわりとしみてゆくのでしょう



つる

ちょっとごめんよ
きみの名前は分からないけれど
それそれそうしてそんなに巻きついたら
ヒメジョオンが苦しくなってしまうよ
きみと違って彼女の茎は
そうそう柔軟性はないのだから
ほらほら彼女のからだが
斜めに傾いでいるのが分からないかぃ
きみの重さのせいだと思うよ
そうだ、ちょっと待ってて

しばらくして
小鬼は細竹を持って戻って来た
それをぐさりと地面に突き立てると
ヒメジョオンの茎から
名前の分からぬもののつるをそっと外し
細竹に丁寧に巻きつけた
ヒメジョオンはゆるゆると背筋を伸ばし
名前の分からぬつるは
細竹をぎゅっと抱きしめた



ドクダミの忍耐

草刈りの刃を逃れ咲く白十字

熟練の刃をすり抜けて

刈られた他の草を隠れ蓑に

災いが去ってゆくのを

息を殺して待っていたのか

干からび朽ちてゆく

様々なかたちに刻まれた葉や

まるで点のような極小の

黄色や白の花々に埋(うず)もれて

ひっそりと息を継ぎ

静寂のなかから芽を出し茎を伸ばし

見事に咲いた小さな小さな白十字



曇り一時雨

梅雨空の下で
夏椿の白い花がさわやかに咲いている

降るのか降らないのか
空気は次第に湿り気を増し
どんどん重くなり
肌にまとわりついてくる

幼子の涙のように
ぽつりと一滴こぼれたら
あとからあとからあふれでて
崩れやすい夏椿の花に
容赦なく降りかかる

もやもやと時が過ぎ
すっかり夜の帳が降りる頃
一気に冷えた雨上がりの風は
嘘のように身体を冷やす

朝に咲き夕に落ちる白い花
濡れた石畳の上に横たわり
花びらの端を風に揺らしているのは
雨が降らなくとも同じ光景

朝(あした)になれば新しい花が咲く
白い花がさわやかに咲く



遊覧飛行

弁天堂の小さな池に
睡蓮の花が咲いている

赤紫の花と白い花
なぜか白は遠慮がちに
池の縁で咲いている

すると
つるつるの葉の上で
なにか動くものがある

じっと目を凝らすと
小さい小さい
細い細いイトトンボが見えてきた

翡翠色の二匹が繋がって
葉の上をいったりきたり飛んでいる

つぃ、つぃ、と向きを変えながら
いったりきたり飛んでいる




眠り薬

薔薇に埋もれた老人の家は
季節が変わって
いまはラベンダーの香りに包まれている

やさしいけれど甘過ぎず
さわやかさも感じる香り

きっと夜はよく眠れるのだろう
出窓の向こうから
談笑する老人の声が聞こえる

今夜はボクもラベンダーの香りを抱いて眠ろう
もしかしたら、タイムトラベルしちゃうかも…
小鬼は「うふふ」と小さく笑った



ぽちりの行方

寺の本堂脇にそびえたつ
大きなケヤキの古木の枝に
ぽちりと光るものがある

ひとつは枝の上の方
ひとつはずっと離れた下の方
ひとつがぽちりと瞬けば
少しの間をおき
別のひとつがぽちりと瞬く

ピンク色の夕焼け空が
墨を含んだ青色に変わる
やがてそれさえも闇に沈み
畳の目ひとつ分だけ長くなった夜になる

夜更けを迎え
上の方のひとつは
ゆっくりぽちりと瞬くと
すぃっと夜空に飛び出して
あっという間に見えなくなった

下の方のひとつは
夜空に航跡を探していたが
やはりゆっくりぽちりと瞬き
静かに枝を離れていった

「またね…」
そんな囁きを聞いたのは
一羽のふくろうだけだったろう



夏至の夜

雨上がりの光る路面

澄んだ夜気を吸い込んで

雨だれの音を聞きながら

今夜はどんな夢を見るのだろう

月明かりのない

夜の水たまりに願掛けて

どんな夢が見られるのだろう



つやつやふっくら虫

道端の

ヒメジョオンの小さな葉に

小指の爪ほどもあるかなしかの

小さな小さなテントウムシがいた

つやつやふっくらと

黒豆の煮豆のようなからだに

これまた小さな紅い星を

ふたつばかし背負っていたよ



お裾分け

お裾分け頂いたさくらんぼは
洗い桶のなかで
流水に光る

つやつやと紅く熟した実は
嬉しそうに
流水に光る

急に暑くなってきたので
ガラスの鉢に盛ってみる
紅く丸い実をなぞるよに
水滴がつつと流れる

「さぁ、召し上がれ」
「まぁ、頂きますね」

ひとりままごとの日が暮れる



酔いしれて

泰山木(たいさんぼく)の花が咲いた

白い大きな花は

手の届かぬところで香っている

足にたくさんの花粉をつけた小さな蜂は

花の間を行ったり来たり

蜂よ

きみはその香りに酔うことはないのか

僕は本気できみが羨ましい

なぜなら

僕はその白い花のなかに身を埋め

息が詰まるほどの香りに酔いしれて

そのまま息絶えてしまいたいと思うからだ



六月の桜

初めて目にする菓子であった

お椀を伏せたような形の
ほんのりピンク色のゼリーのなかに
本物の桜の花が一輪
ふわりと浮かんでいるのだ

程よく冷やされたゼリーは
白磁の小さな正方形の菓子皿の上で
ふるふると揺れた
小さな銀のスプーンで
そっとすくったゼリーは
口のなかでほのかな桜の香りを放つ

思いがけず
胸のうちがざわついてくる
思い出してはいけない
桜子はもう戻っては来ないのだ

「あら、口に合わない?」
「いや…」
怪訝な顔の叔母をよそに
僕は
庭に一輪だけ咲いた
夏椿の白い花を見ていた



赤備え(あかぞなえ)

鳥居の白い礎石の上に
長い触角を持つ虫が
紅い甲冑姿で佇(たたず)んでいる

井伊か真田か
はたまた武田か

戦(いくさ)を仕掛ける日を前に
お諏訪さまに詣でたか

健御名方(タケミナカタ)の神様に
己の武運を願ったか

やあやあ、ベニカミキリの大将殿



落花

植え込みからこぼれた
鮮やかなピンク色の花にも
雨は降る

いずれは
茶色に朽ちてゆく花びらに
雨は雫を宿らして

それは
儚いながらも
精一杯咲き切った花への
末期の水

その雨の雫もまた
遅かれ早かれ
すっと乾いて消えてゆく

共に儚いいのちなれども
いまはただ
微かな温もりに
束の間の夢をみる



小鬼の夜更かし

夕方からの雨は上がり
雷さまもお帰りになりました
夜も更けて
やけに辺りが静かなのは
霧が出てきたからなのかもしれません

朝早いのだから
とうに眠っていなければならぬはずの小鬼は
ひとり眠れずにおりました
何度も寝返りを打つうちに
とうとう寝床を抜け出してしまいました

こっそり開ける雨戸の隙間から
ひやりとした空気が流れ込みます
「うう、ぶるる」
身震いしながら見上げた夜空に
半分よりは少し丸いお月さまがおりました
お月さまのところまでは
霧は届いていなかったのです

小鬼にはお月さまが頷いたように見えました
「さぁ風邪をひかぬうちに寝床へお戻りなさい」
「はい、おやすみなさい。お月さま」
小鬼はぴょこんとお辞儀をすると
そうっと雨戸を閉めました
目と鼻先を紅くした小鬼は
急いで寝床へ戻り
頭からすっぽり布団をかぶりました

更け待ち月の夜のことです



寝待ち臥し待ち

今宵の空は雲厚く

それでもほんの切れ間から

行灯色の光が洩れる

寝待ちの月のお出ましは

半分程に留まって

あれよという間に雲隠れ

ああ、しょんがいな、しょんがいな



月に酔う

蓮(はす)という名の香でも焚こうか

周りの雲をも眩しく照らす

居待ちの月に杯を上げよう



夜番

日曜の夜が静かに更けて行く

立ち待ちの月は

日付が変わる頃中天に達する

スピードを上げて

目の前を次々と過ぎ行く雲も厭わずに

煌々と輝く月は心強い夜番となる



月光

いざよう月を試す様(よ)に

重なり合(お)うてはつと離れ

薄衣(うすぎぬ)のごと雲は流れる

いざよう月の

出はいざようても

その輝きは怯むことなく

小さき白十字の花をも照らし出す



紅い月

稲妻走る黒雲の向こうに

紅い満月はある

日中の高温を一気に冷やす雨の向こうに

紅い満月はある

いつもより小振りな満月は

紅く染まって夜空にあるのだ

けれども

僕にとっては

それはただの幻でしかない



小望月

小望月のまばゆい輝きは
薄雲さえも遠慮する
その月明かりに身を委ね
ふぅっと小さく 細く 
長い息をついてみる

かつて
叶うことのなかった約束は
あえなく塵(ちり)と成り果てて
漂い やがては地に落ちて
小望月の輝きを
どこかでそっと
眺めているのだろうか



ばらのうた

あぁかいばらはおじいさんの
おうちのしぃろい壁に咲いたよ

しぃろいばらはおばあさんの
おうちのきぃろいドアに咲いたよ

きぃろいばらは髪結いさんの
おみせの小さな裏庭に咲いたよ

ピンクゥのばらはケーキ屋さんの
おみせの前の花壇に咲いたよ

あぁおいばらはどこに咲くだろ
あぁおいばらはどこにあるだろ

あぁおいばらは夢が叶うと
水晶玉の占い師が
にやりと笑って言うのだもの



青空に

待ち焦がれた青空に

犬も猫も人間も

虫も小鳥も池の鯉も

花も草も木々たちも

思い思いに背伸びして

街に繰り出す 山に歩く

空を飛び交い 地を這いずって

ぴしゃんと水を撥ね上げる

賑やかな小鳥のさえずりに

うぐいすの艶声が朗々と

ひときわ高く響き渡る



日の入り

日の入り間近の空に浮かぶ雲は
草冠をかぶった牧神が
茜色に染まる山の稜線に向かって
手を差し伸べているようだ

その山の上には
細長い雲が笠のようにかかり
端の部分が白く光っている

やさしく美しい茜色の空に
形は定かに見えない飛行機が
まるで彗星のような尾を引いてゆく

小鳥たちも帰り支度
さて僕は何処へ帰ろうか




闇の眠り

温かいカモミールのお茶を飲もう

怖い夢はもちろんのこと

楽しい夢もいらない

ただ

何も考えず

温もりを抱えて

毛布に包まって

吸い込まれるように眠るのだ



衣替えして

六月を前にして

あわてて衣替えをした

六月に入り

またぞろ長袖を引っ張り出す

冷凍室のなかで

食べ損ねたアイスクリームのカップがふたつ

静かな眠りについている



雷雨

眠りながらも
耳はずっと激しい雨と風の音を聞いていた
明け方近くの幾度もの雷鳴に
思わず毛布を引き上げ
小鳥のことを思った

雨に濡れ風に押され
雷に怯えた小鳥は
通りの植え込みのなかで
小刻みに震えていた

元気を取り戻した小鳥はなついたが
長くは続かないことは分かっていた
それでももしかしたら、と小さな希望を持っては
いかんいかんと、あわてて打ち消すのだった

そしてやはり
或る日突然、小鳥は飛び立ち
そのまま帰ってはこなかった




変わり目

季節はずれの真夏日に

思わず手が出るかき氷

ひと晩明ければ雨に冷え

十度も下がる気温差に

重ね着の手に熱い珈琲

ゆらり揺れるは湯気か我が身か



気鬱

手水舎では
赤紫と青色の
紫陽花模様の手拭いが
曇り空へ雨を乞い
くるりくるりと風に舞う

境内では
水の出入りのない池が
すっかり緑に澱みきり
縁に顔出す真鯉も稀なり

社殿裏手の鎮守の杜は
変わらずよい風が吹いてはいるが
電動の草刈り鎌の金属音に
追い立てられて逃げ帰る

草の葉に隠れたへびいちご
あれもあっさり刈られてしまうか



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