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2017年5月

三日月

くっきりとした三日月の下を
チカ、チカ、と瞬きながら行くものは
北へ向かう旅客機であろう

貨物列車の通過音が風に乗って聞こえてくる

やがて昼の暑さはすっかり冷えた

朝から出ていた三日月は
日付が変わるその前に
くっきり美しい姿を消してしまった

田んぼのカエルたちはまだ鳴いている
結構な夜更かしさんだね

置いてきぼりの暗い夜空は
なんだかとっても淋しいよ



街路樹にて

こんもりと繁る

ハナミズキの葉の陰で

二羽のキジバト ランデヴー

カサカサと葉を揺らし

枝から枝へと続く追いかけっこ



独白

どんな言葉も

なんの慰めにもならないことぐらい

自分が一番よく知っている

言葉を振り払い投げ捨て

誰に分かるものかと息を詰まらせていた

それなのに

繋がる小指を捜しては

僕はいつも闇の中に手を差し出していた



思うようにはならぬもの

春からいきなりの真夏へ
続いて今度は秋の冷気
アカシヤは咲いたけれど
思い切り香る前に冷たい雨に祟られて
なんだか気の毒だった
歩道に貼り付いた小さな白い花を踏まぬように
小鬼は用心深く、坂を上っていた

寺が近づいてくると
とてもよい香りがしてきた
いつものお線香とは違うようだ
ちょうど喪服姿の人々が
続々車に乗り込んで門を出てゆくところだった
今日はご法事に合わせて
香りがよく広がるお線香を使ったのだろう

寄り道を諦めた小鬼は
いつもより少し華やかな香りを胸一杯に吸い込むと
足を速めて坂道をぐんぐん上った
こぶしを固めて怒ったように
ぐんぐん、ぐんぐん上っていった



蜘蛛のヴェール

霧雨はまるで秋のように沁みこんで
心もからだも冷やすから
小さな葉をみっしりつけた植え込みに
よく気のつく小さな蜘蛛が大急ぎ
柔らかなヴェールを掛けたのでした

白いヴェールを飾り立てる
霧雨のビーズ玉は数え切れず
それを見た小さな紅紫のつぼみたちは
その美しさにそわそわと落ち着かず
ヴェールからこぼれ落ちたビーズ玉の
思わぬ冷たさに触れてしまい
ぷるると震えたりしているのです



歯車

鳥も蛙も木も花も

池の鯉も狛犬も

闇夜の眠りにつく頃に

ヘッドフォンでこっそり聞いた

灼けつくような旋律に

キリキリ ギシギシ 軋みながら

削れてゆくか 心の歯車



雨。

朝からずっと
今にも雨が降り出しそうな空だった

午後、花火の合図で
小学生の鼓笛隊パレードが始まり終わった
空はずっと我慢してくれていた

日暮れ近く、とうとう雨が降り出した
田植えを終えた田んぼから
蛙たちの歓喜の歌が聞こえてくる

アカシアの白い花房も
すっかり雨に濡れていることだろう




行き先

木々を揺らし花を散らし
埃を舞い上げ幟旗を千切り
大風が吹き荒れる

熱い空気を追い出し
湿ってひんやりした空気を呼び込み

屋根を滑りビルの角に当たり
轟(ごう)と音を立て
大風が吹き荒れる

その風のなかでくらくらと
おまえの魂はいったいどこへいこうとしているのか



今日の小鳥

今日の小鳥はじゅうぅと鳴くの

じゅうぅ じゅうぅ と鳴きまする

僕はここだよ ここにいる

僕をみつけて 返事をしてよ

朝からこうして鳴きまする

じゅうぅ じゅうぅ じゅうぅ じゅうぅ




眠り

左手首の裏側に

ちょっぴり塗り込む練り香が

ふわりと鼻先かすめれば

悪い夢だけ追い出して

眠りの帳が下りるでしょうか



小鳥

カワラヒワのさえずり止まぬ

電線の定位置で

きるる きるる きるる

そろそろ暑くなるから日陰へお行き

きるる きるる きるる

夕暮れの涼風が立つ頃

電線の定位置で

きるる きるる きるる



下弦の月

日付が変わってやっと出た月は
よく晴れた朝の空に
まだぷかりと浮かんでいた
透き通った白さは儚くて
そう長くはいられまい

「居残りかい」
半分の月は答える
「ふふん。もうじき消えるさ。
それよか向こう岸へ行くがいいよ。
アカシアの花が咲き出している」

花はまだ香るには早過ぎて
文句を言おうと空を見上げると
半分の月は青空に融けて
すっかり見えなくなっていた



鳥鳴く声に

鳥が鳴く鳥が鳴く
朝から賑やかに鳥が鳴く

名前を知るもの知らぬもの
屋根や電線、木の梢
空をすいすい飛びながら

朝昼日暮れに鳥が鳴く
鳥が鳴く鳥が鳴く
鳥が鳴く啼く泣く鳥よ

本当は
高い高い木のてっぺんで
誰にも見咎められぬよう
血の涙を流しながら
おんおん思い切り哭きたいのか
鳥よ鳥よ、日が暮れる



白い太陽

未明の雨のせいだろう
覗き込んだ神社の池は
どろりと濁ってなにもみえない
千切れた木の葉や枝が漂う
いつもならすぐに上がってくる鯉も静かだ

薄日が射し始めて
辺りが少し明るくなったとき
濁った池にぽかりと白い円盤が浮かんだ
見上げた空の
小さな雲の切れ間から
射し込む光は眩し過ぎて形はよく分からない

もう一度水面をみると
白い円盤の周りが
あのフェルメールブルーに染まっている
あわててカメラを構える間に
円盤はどんどん鉛色の雲に閉じられてゆく

やっと撮れた写真には
形の崩れた卵の白身が写っているだけだった



桐の花

薄紫の釣鐘の花は
白い懐紙の上で
すっかり茶色に変わり
かさかさと乾いているというのに
先端に僅かに残る紫の痕跡
鼻を近づけると
微かに香る甘い吐息

帰そう帰そう
夜の闇に紛れて
柔らかな土の上に帰そう
派手にとッ散らかった
牡丹の花びらに気づかれぬように



青い雲

雲は西から東へ流れていた
雨上がりの日没間もない空
完全な夜の闇にはまだ支配されていない
灰色の雲はゆっくりと流れてゆく

ぼんやり眺めていると
突然青い雲がぐんぐんと近づいてきた
灰色の雲の前を流れてゆく雲は
タツノオトシゴの形に見えた

雲は流れながら形をどんどん変えてゆく
「青龍。。」
身体をくねりながら進む龍は
端の方からみるみる崩れ始めて消えた。。



くらり

たくさんの花かんざしの下を歩くと

藤色の香りがさぁっと揺れた

たくさんの小さな鈴のそばを通ると

白い香りがふるふると揺れた

街路樹のハナミズキに香りはないけれど

雨催いの空に向かって開いた

たくさんの白い花にくらりと心が揺れた



雨が激しく降っています
通り掛かりの庭に
紅い牡丹が咲いています
黒い傘を差しています
支柱にくくりつけられた傘が
激しい雨から守っています

別の庭では紫色の牡丹に
透明のビニール傘が
また別の庭では桃色の牡丹に
紺地に白い水玉の傘が
それぞれ満開の牡丹の花を守っています

小鬼は自分の黄色い傘の柄を
ぎゅぅと握り締めました



届け、きみのもとへ

散歩で見つけた桐の花
薄紫の筒型をして
三つ四つと落ちている
息をすぅと吸い込めば
一年ぶりのこの香り

窓辺に置いた桐の花
すこぅし窓を開けているのは
香りを知らないきみのため

届け、きみのもとへ



野藤(ノフジ)

山桜散れば

巻きつく野藤(ノフジ)の紫の房

香り聞きたし

風はなし





※野藤=山藤(ヤマフジ)とも。
      庭木にされる藤(フジ)と蔓の巻きが逆。
      また花房もフジより短かい。

雨と牡丹

肌寒さのなか
降り出した雨は
庭の牡丹の薄桃色の花びらを
容赦なく翻弄する
大小幾つもの花は揺れながら
右に左に表に裏に
よれたり戻ったりを繰り返す

「不憫(ふびん)などとは思わないで下さいまし。
わたくし達、こうして雨と戯れているのが
たいそう楽しくているのです」

なるほど雨が上がってみれば
薄桃色の花びらを
裏返ったりよれたりもそのままに
遊び疲れた幼子の如く
くたりと眠りにつく牡丹



覆水

眠れぬからと
子守唄をせがみ
眠るまで
背中をとんとんしてと

ちょっとでも唄が途切れたり
とんとんが間遠になり始めると
ううん、とむずがる甘えん坊は

或る日突然目覚めたとみえ
もはや誰の手も鬱陶しいと
くるりと背を向け旅立った





教えたい月

今夜の月は美しいよ、と

旧暦十三日の月が美しいよ、と教えてくれる

久し振りに見上げる夜空には

ずんずん流れる薄雲の向こうに月が、ある

雲はちょっぴり意地悪だが

それでも光は届いているよ、と

シフォンをまとった月も美しいよ、と教えたい

月を愛でるどこかの誰かに、教えたい



わすれもの

森を吹き渡る風の音は

寄せては返す波の音にも似て

大きなケヤキの幹にもたれ

じっと目を閉じていると

潮の香りをひくひくと鼻が探している



綿毛の行方

原っぱでは
どうやら草刈りが決行されたらしく
短く刈り込まれた草の上に
たんぽぽの綿毛だけが
丸い形のまま
点々と横たわっている

強い風が吹きでもすれば
颯爽と飛び立って
思い思いの場所へゆくのだろうけれど
この雨はどうだ
濡れそぼった綿毛は
その場から飛び立つことは出来ぬだろう

「それはそれでいいんです」
「こうなる前に遠くへ飛び立った仲間が大勢います」
「乾けばまた風に乗れます」

小鬼は小さな傘をぱさりと閉じた



船出

岸壁を離れた大きな船は
煙突から黒い煙を吐きながら
ゆっくりと向きを変え始めた
やがて
まるきり僕の方へ船尾を向けると
外海(そとうみ)を目指し進み出す
ゆるゆるとした動きに見えて
その実
大きな船はどんどん遠ざかってゆく
毛ほどのためらいもなく
どんどん遠ざかってゆくきみの船
サヨナラと手を振るでもなく
汽笛を鳴らすでもなく
一度も振り返らずにどんどん遠ざかってゆく

僕はといえば
日が暮れてゆくなかを
小舟に乗り込み川を上る
海を背にして川を上る
僕はきっと海へは下らない
どこまでも川を上り続けるだけだろう



立夏

やわらかな若葉の合間に

ぽうと山桜の花咲き誇る

紗がかかったような色合いは

どこか夢うつつの景色のようで

暦は進んでも

未だ春眠の眼(まなこ)から

目覚めておらぬのかもしれぬ



鏡田

田植えを待つ水田は

五月晴れの空の下で

瑠璃色の鏡となる

そうして

時折立つさざなみに鏡は揺らぎ

素焼きの肌を流れる釉薬(ゆうやく)のように

瑠璃色はゆるゆると水面を滑り

また鏡へと戻ることを繰り返す





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