« 2017年3月 | トップページ | 2017年5月 »

2017年4月

若葉の頃

花は散っても
桜の紅い軸も美しい
若もみじと
小さな紅い花も美しい

小鳥の声を聞きながら
花びらを浮かべ
ゆるゆると流れる川沿いを歩けば
満開の八重桜や濃い紅色の花桃の木に出会う
蝶と見紛うようなアジサイの新芽や
累々と横たわる落椿の小道を見つけたりする

「いい加減、その重ねすぎた衣を脱いだらどうかね」
そうして少しずつ風に慣れてゆかねばなるまい
ぐんと踏み出す道の先がピカリと光った
小さな丸い光り物は
まだ新しい五円玉だった
手を伸ばすと
ウインクをするようにピカリと光った



御衣黄(ぎょいこう)

今年もまた
寺の鐘楼の脇にある
緑色の桜が咲き始めた
緑に咲いて
段々に紅くなってゆく桜
その変化してゆくさまも楽しみなのだ

ところが先頃
庭は腰高のフェンスで囲われて
今日などは裏口も閉ざされて
なんとも淋しい気持ちになったところへ
ぽつりぽつりと雨粒が落ちてきたもんで
尚更ますますどんよりとして帰ってきた



石ころ

晴れてはいるが風が強い

吹きさらしの広大な駐車場の隅で待っている

ペットボトルの水は既に飲み干してしまった

待っている

来たためしなど一度もないのに

待っている

そうしてそうして

帰り道はいつもひとりだバスに乗る



花びらの行方

小さな花びらは
小さな虫のように
風に乗って
ひらひら はらはら くるくる と
お寺の反り返った屋根を滑り
お屋敷の庭の木々の間を過ぎり
アスファルトの地面に降り立ったかと思うと
すぐまた舞い上がり
新芽の出始めたイチョウの木を越えて
さてそのあとはどうしたろう
どこかのベランダか玄関先
鳥居か石段、賽銭箱
鯉住む池か川面か畦か

小さな花びらは
小さな虫のように
風に乗って
風のままに
ひらひら はらはら くるくる と
ホントは行きたいところがあったのじゃないか



散る桜

よもぎ摘む

嫗(おうな)の背(せな)におんぶして

甘えん坊の桜ひとひら



旅立ち前夜

葉桜の下で
老人は最後の商いをする
風に揺れる紅白の提灯をかすめて
花びらが舞う 舞う 舞う

鶯が鳴き燕が飛び交い
雀が餌探しに忙しいが
今日は冷える
それでも結構な人出に
老人の商売もそこそこ忙しい

綿あめを入れた袋の口に輪ゴムをかけながら
明日の旅立ちを思う
桜を追って更に北へゆくのだ
老人はいつも「さいなら」と呟いて発つ
次があるかはわからない
誰にもわからない
だから「さいなら」と未練を絶つ

「おじさん、ひとつおくれ」
くりくり坊主の少年が
息を弾ませやってくる



あやかしの桜

今一度(まいちど)行きたや あの山へ
ひとやま丸ごと桜の山へ

旅路の果てに出会うた山の
桜の花に酔いしれて
ずんずん深く分け入れば
思わぬ大風吹きつけ起こる
花吹雪のもの凄さ

頭や肩に積もる花びら
周りの景色をすっかり消して
交わす言葉ものまれるほどの
雨降りのような花散る音よ
夢か幻、あやかしか

今一度(まいちど)行きたや あの山へ
行ってこの身を埋めたや



残花(ざんか)

春の嵐の狼藉は

川の流れの花筏(はないかだ)

ゆるゆる下る花びらに

じきに私も参りましょうから

冷たい風に身を震わせる

土手の桜のお見送り



柳と桜

枝垂れ柳の紐のれん

風の吹くままなすがまま

大きく小さく揺れる度

透けて見えるは桜の並木




眠れぬ夜に

他愛のないやりとりや
ちっぽけな発見や
ささやかな変化や
そんなことが
じわじわと心に沁みてきて
ひとさまからしたら
全く取るに足らないことなのだろうけれど
奥歯をギッと噛み締めないと
にまにまと顔が緩んでしまいそうで
これが「しあわせ」って気持ちなのかな、と
すっかり夜更けて
桜の木の輪郭も分からない闇に
眠れない小鬼はひとり頷いている



秘密の坂道

坂道の頂上の少し手前で立ち止まる

これから下る坂道の先は

地平線が桜色に染まっている

花曇りの空との間に

桜色の帯が流れている

もこもことしていて

綿菓子のようでもある

桜色の

甘い甘い綿菓子のようでもある



晴れの日

自らのいのちの短さを悟ってか

週明けの雨を前に

一気に花開いたさくら花

繰り出した人々の喧騒のなか

時折吹く風に

鯉のぼりとともにやさしく揺れる

遠くに霞む雪を抱いた山並みに

そっと合図をするかのように



さくら咲く

ひとりで そっと 眺めていたい

朝な夕なに 眺めていたい

咲いて 誇って 散りゆくまで

息をするのも 忘れるほどに



春ちゃん

ほころびかけた桜の下で
沈丁花が咲き出して
ほのかに香りを漂わせている

さくら模様の手ぬぐいの舞に
うぐいすのうたが興に乗り
池の真鯉も優雅な泳ぎで
水面(みなも)にゆたぁり波紋を描く

鳥居の前の細道を
新入学の黄色い帽子が
ぴょんぴょん跳ねて過ぎてゆく

遅まきながらと頬染めて
やっとこ春ちゃんお出ましだ



虫の息

ぱたりと閉じた本に挟まれ
丁寧に押された花びらや葉ではなく
ぱたりと本が閉じられる刹那に
風の悪戯か己の意思か
すぃっと間に挟まれたまま
身動きを封じられ
すっかり忘れ去られて
たまさか再び開かれたとしても
しみがついたと舌打ちされるか
或いは全く気づかれないか
いずれにしても
薄暗い古本屋の片隅で朽ちてゆくなり
恋に狂うた八百屋の娘のように
燃え盛る炎のなかで灰になるなり
とるにたらない小さな虫も
ちっとはこうして最期を思うたりするもんです



春時雨

ふくふくと膨らむつぼみの先が
割れてピンクに染まりゆく
春時雨というには暗い空から
ぱらぱらと打ちつける雨の粒
枝を揺さぶる意地悪な風

着ぶくれた綿あめ売りの老人は
ビニールシートの隙間から
高台のお屋敷跡の一本桜を眺めている
なんという種類の桜か
もうすでに五分咲きほどになっている

ソメイヨシノのねえさん方は
あした咲くのかあさってか
独りごちる老人が
ぷぅと吐き出す煙草のけむり



思い違い

きみの桜は散ったのだろうね

僕の桜が咲かぬうちに

今日は雨、一日雨、寒い雨

きみの桜は見事に咲いたのだろうね

僕の桜が追いつかぬうちに

僕の桜が散る頃には

きみの桜はずっとずっと向こうへいってしまう

たぶん、おそらく、きっと

僕たち最初からスタートラインが違っていた



うらやむ

心(うら)病んで

さくらさくらに

背を向ける



乙女椿

傘もささずに木の下で
乙女椿の木の下で
ぽとりと落ちたピンクの花を
小鬼がせっせと拾っては
ちいさな背負い籠に入れてゆく

そうして籠をいっぱいにして
何度も運ぶは桜の木
根っこがすっかり隠れるほどに
落花を丁寧に敷いてゆく

遣いから戻った若い僧が
傘をかしげる
首をかしげる
「風邪をひくよ」と声掛ける

振り向く小鬼はニコニコと
「根っこがね、ぐんぐんこの色を吸い上げて
そしたらつぼみもぐんぐんピンクになって
お待ちどうさまって咲くと思うよ」

「風邪をひくよ」
若い僧はもう一度いうと
傘のうちに小鬼を入れて
鼻の頭のはねた泥を
手ぬぐいでそっと拭ってやった



梅よ、梅

昨夜雨が降りまして
梅の花も散り頃となり
辺り一面花びら文様
ちいさく丸い花びら愛し

香りも既に消えかかり
ぽちりぽちりと落ちてる花は
ひよどり殿のくちばしの仕業

通り掛かりの幼子が
手のひらの上にそっとのせ
とうさん、桜はいつ咲くかしら



怜子さんの桜

去年の今頃はもう咲いていたのよ

ああ、五分ぐらいだったか

いえ、満開に近かったわ

そうか

そこへ雪が降ったのだわ

そうだったね、四月の雪だった

桜の花に雪が積もって

うん

案外それがきっかけだったのかもしれなくてよ

え?なにの?

自由でいいわね、あなたは

ええ?

誰からも、なにからも、自由なのよ、あなたは


桜のつぼみの膨らみ具合を眺めながら
頭のなかで続けられる会話は
すっかり自分の内に呑み込んでしまったものだ
じりじりと胸が詰まってくるのは
意外に坂道が急なせいだと
怜子さんは思うのだった



子守唄

雨だれは
休むことなく
なにごとか語りかけてくる

日が暮れて
夜が更けて
少し冷えてきたけれど
もう冬の雨じゃあない
桜のつぼみも
今夜は凍えてはいない

だから
安心して眠るがいいよ

雨だれを

聞きながら

眠るが

……いいよ



さくら便り

さくらの便りに

あらためて思う

君と僕との埋められない距離



四月四日

手水舎の
さくら模様の手ぬぐいは
少ぅし温んだ柄杓の水で
清めた両手をやさしく包(くる)む

石橋渡れば
からかい気味に
ぱくりと口開け真鯉が寄りつく

つれない風は吹き抜けざまに
結び並んだおみくじ揺らし
絵馬をかつかつ鳴らしゆく

花はなけれど鎮守の杜で
清明の空にぽかりと浮かぶ
白い半月仰ぎつつ
さえずる小鳥のひぃ、ふぅ、みぃ





おやすみは独り言

雨が止み

途切れがちな車の往来を照らす

交差点のオレンジ色の灯り

街は闇の底で

静かに眠りについた

今夜もまた冷えている

桜の開花予想も先延ばしになった

なにか温かいものを飲んでから

寝よう

眠ろう

明日のために





桜待ち町(まち)

つぼみも色づかぬ桜木に

早くも下がる花見提灯

菓子屋のガラス戸は賑やかに

「梅大福」に「桜餅」

「柏餅」まで加わって

半紙に踊る墨文字は

春本番を呼ぶ合図




桜そば

紅花を打ち込んだという蕎麦は
ほんのり桜色をしている
コシの強いやや硬めの蕎麦は
ほんの少しの塩で食する
するとどうだ
口中にたちまち桜の風味が広がる
正確には
塩漬けの桜葉の風味だ

小さな庭の塀越しの
寺の桜木にはまだ花はない



橋の向こうの春

土産に持たせる焼き菓子を買いに
橋を渡る
冬色の雲に覆われた空の下の
橋を渡る
冷たい風は歩みを速める

チーズとオニオンのクッキー
バターサブレとチョコサブレ
小さなビスケットも入れよう
そして最後に
バラの花をかたどった
薄いピンクのフィナンシェを放り込む

ほんわり暖かな店を出て
また橋を渡る
薄いピンクに春を念じて
また橋を渡る

そうだ
さくら色した桜のクッキーがあったら素敵だな




« 2017年3月 | トップページ | 2017年5月 »

Moonlight

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

素敵なブロガーさん♪

無料ブログはココログ