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2017年3月

つるカメ

濁った池の水底に
見覚えのある姿があった
小さな石の太鼓橋に膝をつき
水面の反射に身をよじらせて
ずいと覗き込んでみる

真鯉がすいすい泳ぎ廻るその下で
じっと動かずにいるそれは
あのカメ吉に違いなかった
しばらく待ってみたが
動く気配は全くない
それでもカメ吉の無事が嬉しかった

帰りには
和菓子屋さんに寄って
つるの子餅を買おう
紅白のつるの子餅を買おう



春の雪

田起こしのあと
積もった名残りの雪融けて
ムクドリが土をつつくその傍で
水たまりにさざなみが立ち
映り込んだアパートの建物が震えている
晴れていれば
真っ白な稜線を見せる山並みは
未だ雲で閉ざされたまま
捜索のヘリコプターの音だけが
低くくぐもって聞こえてくる



三月去る

時を刻む
ネギを刻む
心を刻む

会うは別れの始まりなれど
別れのあとには
新しい出会いがあろう
そう思えば
別れもまた楽しからずや
などと強がりをいい
もはや心は微塵切り
そうして見る間に三月は去る

時は刻まれ
ネギは刻まれ
心は刻まれ

なに、失敬な
これはネギが目にしみたのだ



うたう少年

少年はうたう
キャンバスいっぱいに描かれた
たくさんの花の絵を見てうたう
どうしてって
花のなかにはこびとたちがいて
みんな楽しそうにうたっていたから
外は名残りの雪が
思わぬ大雪になっているけれど
「花は咲く」とうたう少年の声に
なんだかみんなホッとして
降りしきる雪の向こうに
春をみた



やはり雨は雪に変わる、夜更け過ぎにね

まいまいあどりゅーさらんぽあ

ぷしはりゅみろわやきかぱみり

でぽらじしゃらひむどとんるぱ

僕の言葉は届かない

君の言葉は聞こえない

僕のココロはどこ行った

君のココロは宇宙の果てへ



笛の音(ね)のお話

男はふらりと現れたのでした
町外れの丘の上で
木にもたれて笛を吹いておりました
心打たれる良い音(ね)の笛でありました
娘は川を挟んだ向こう岸を歩いていて
その音に出会ったのでした
川原の石を拾う振りをしながら
娘はその笛の音に聴き入っておりました

男は毎日丘の上で
良い音の笛を吹くのでした
虜になった娘も
毎日向こう岸に通いました
もう石を拾う振りなどはせずに
川原の石に腰掛けて
うっとりと笛の音に聴き入っておりました

男はいつしか丘を下り
娘の対岸の川原で笛を吹くようになりました
明日渡ろうこの川を渡ろうと思ううちに
時は流れてゆきました

娘がいつものように川原へゆくと
一艘の小舟が下ってゆくのが見えました
後ろ姿の男と一緒に
美しい娘が乗っていました
それきり男の姿はもちろん
笛の音も聴くことはなくなりました

いまでも時折
娘の耳にあの良い音(ね)の笛が聴こえてきます
それは空耳というものですが
未だに胸を騒がせながらも
それを慰めもする不思議な音色なのでございます



なんのこれしき

横殴りの風雪のなかで
酔狂にもハクモクレンの花芽を数えてみる
ひぃふぅみぃと数えてみる
数えながら
「さぞかし寒かろう」と呟いてみる

まだ咲き続けるピンク色のサザンカの傍らで
ぐんと上を向いた花芽たち
「なんのこれしき。
今更へこたれなどするものですか。
この銀の毛のコートとともに
厳しい冬を越してきたのです」

「そうさ、これくらいのことで
へこたれているのはおまえぐらいだ」
水面に顔を出した黒い真鯉は
まぁるい口を開けるなり
ぐぷんと嗤って泳ぎ去った



時雨れて

春時雨というよりも
初冬の時雨を思わせる
彼岸も過ぎたというに
今日はことに寒い
風に身を縮めながら歩く帰り道
交差点を照らす
街灯のオレンジ色が
信号待ちの間の唯一の慰め




小鬼の旅

雲で見えない半月の晩に
小鬼はそっと旅に出た
探し物を尋ねて歩く
あてどもないひとり旅
ころりと転げて行き方知れずの
女雛の頭(かしら)と
神社の池から姿を消した
ミドリガメのカメ吉と
それからそれから
時折ぴゅうと風が吹き抜ける心の虚(うろ)に
ぴったりはまるコルク栓



彼岸の雨

降っているのは
「濡れて参ろう」の春雨ではなく
ちょっと季節が後退した冷たさだった
それでも
風がないので穏やかな雨だ
花に彩られ、線香の煙に包まれた墓も
今日は静かに雨に濡れ
ひっそりと佇(たたず)んでいる
そうしてまた
散る桜の花びらが
はらはらと降りかかるのを夢見て
あと少しあと少しと待っているのであろう



最後のりんご

庭に置かれた半切りりんご
これでおしまい
最後のりんご
梅の花も咲いたことだし
もう不自由はないだろう
やってきたヒヨドリに
老人の独り言は聞こえたろうか
ヒヨドリはいつものように
りんごを突(つつ)く
知ってか知らずか
最後のりんごを一心に突く



紅い靴

どなたか私の紅い靴を脱がせて下さい

雑踏のなかで

彼女の声は掻き消され

次々とノックして開ける扉の向こうには

誰も居ない



大学いも

カリカリと 飴噛む音を 空(くう)に聞き

ひとりじゃないよと 消す灯り



水雪(みずゆき)

花壇の前にしゃがみこみ
もしやもしやとみつめているのは
水雪かぶったパンジーの
紫色が少しずつ
色移りするように思えたから

そうして白い水雪が
紫色のインクに変わったなら
それで手紙を書いたなら
遠くなってしまった心でも
少しは想いが伝わりましょうか

花壇の前にしゃがみこみ
震えながら待っている
紫に染まる水雪のインク



黙考

沼より突き出た枝目がけ

真白き鷺が舞い降りて

羽を休めてなに想う

流れ込んだ雪雲が打つ

白い雪粒背に受けて

じっと目を閉じなに想う



忘れ雪

降り続いた雨は
案の定雪に変わった
水気の多い湿った雪は
春の雪だ
盛んに降っているというのに
森のなかでは小鳥の声がしている

春の雪は融けるのも早い
夕暮れの湿った枯れ芝には
色々な種類の小鳥たちが集まり
さかんに地面を突いている

ねえさん
これは忘れ雪でしょうか
それとも
まだ仕舞いには早いでしょうか



降り込められて

夢のなかで聞いたぴちゃぴちゃは
雨の降ってる音でした
朝になっても降りやまず
昼になっても降りやまず
ずぅっとずぅっと降りやまず

お寺の庭の片隅に
明るく咲いた福寿草
今日こそ見ようと思うたに

冷たい雨は降りやまず
いつまでたっても降りやまず
とうとう夜になりました

こんなことなら傘さして
青い長靴かぽかぽさせて
行けばよかった福寿草



かざぐるま

ちりちりちりり
ちりちりちりり
お爺さんの手づくりの
ペットボトルのかざぐるま
それぞれの羽につけた鈴
ちりちりちりり
ちりちりちりり

鳥さん鳥さん、お願いです
せっかく蒔いた種だから
どうかつついて食べないで

ちりちりちりり
ちりちりちりり
畑で廻るかざぐるま
羽の先の小さな鈴が
風が吹くたび震えだす
ちりちりちりり
ちりちりちりり




月影

梅のつぼみを目覚めさせる
ほんわりとした陽気は
日暮れにとともに一気に冷えて
上った満月の光は煌々と
ひとけのない路地のアスファルトに
孤独の影をくっきりと映し出す
いつもなら
手を差し伸べて浴びる月光も
今夜は何故か眩(まぶ)しすぎて
思わず背を向けた心のうちには
まだ雪が降り続いているのかもしれない



りんごにしてね

庭に置くりんごをきらしていた
ふと思いついて
老人はバナナを置いた
やってきたヒヨドリはちょっと突(つつ)いて
老人が覗いている窓を振り返った
「おじいさん、これはちょっとボク苦手です」

老人は『おつとめ品』のりんごを買いに出た
半分に切って庭の餌台に置いた
すぐにヒヨドリがやってきた
「ああ、これこれ。これですよ」
ヒヨドリは嬉しそうにりんごを突く
その様子を窓越しにそっと覗いた老人も
嬉しそうに茶を啜っている




あの日…

思えば

あの日も雪が降ったのだった

突然横なぐりの雪が降ったのだった

寒かった

呆然としていたので

「本当に大変なのはこれからだ」

ということに気づくのは

もう少し経ってからだった



鳥の声

松の枝の高みから
じゅう じゅう と聞こえたよ
きるる きるる と聞こえたよ
大好きなカワラヒワのご帰還だ

冷たい風吹く青空の下
おまえの声を聞いたなら
咲き始めの梅を見つけたよ
冬の間は滅法無口なキジバトも
ででっぽうぽう と鳴いてった




雪に花

思わぬ激しい雪は
容赦なく吹きつけ
凍えている風景を
みるみるうちに
真っ白に覆ってゆく

コデマリかなにかの細い枝には
みっしりと雪の花が咲いたようで
プランターに植えられたパンジーは
雪をかぶって尚更色鮮やかで

かじかむ心にポッと小さな火が点る



白い車

いつの間に降ったのだろう

路面は乾いているのに

屋根を白くした車が行過ぎる

街灯に照らされた交差点を

屋根だけ白い車が

何台も通り過ぎてゆく

白い雪は屋根の上で凍りつき

今夜もまた冷え込んでゆく




春のかけら

曇り空は雪ではなく雨の予感
裸ん坊のハナミズキに
小さな鳥の巣を見つける
畑の周りに集まってきた雀たちは
まだ少しまるっこいけれど
森のなかからは
冬の間は聞かれなかった
小鳥の鳴き声が洩れてくる

陽だまりの梅が花をつけている
ひな人形展ももうすぐ終わる

夜になると
空気が入れ替わる音がし始める
ごごご、どどど
暖かな空気を押し出し
冷たい空気を呼び込む
冬の風が吹き始める
街灯の下に集まっていた小虫たちは
どこかへ避難しただろうか



憧れのぴょん

ずっと前の啓蟄の日に
ぴょんと土から飛び出して
南の国行きの船に乗り
行ってしまったヤツがいた

別のヤツは啓蟄を待ちきれなくて
ぴょんと土から飛び出して
船に乗ったか空を飛んだか分からぬが
行ってしまったヤツがいた

啓蟄だといわれても
土から恐る恐る目だけを出して
きょろきょろ辺りを見廻して
船にも乗れず空も飛べず
いつまでも愚図愚図と
土塊(つちくれ)を捏ねまわしているヤツは

僕だ



白酒 菱餅 ひなあられ
たんと召しませ ひなの夜

五人囃子の音曲に
優雅に舞います三人官女
右と左の大臣は
ゆるりゆるりと弓矢の舞
お次は我らと三人仕丁(しちょう)
泣いて笑って怒りんぼ
三人上戸の愉快な踊り
あははおほほと手を打って
ひなの夜は更けてゆく

楽しやのうと親王が
桧扇の陰を覗き込む
こくりと頷く姫の頭(かしら)は
そのままころんと転がって
七つの段をとんとん弾み
最後にぽぉんと大きく跳ねて
ぱんと障子を突き破り
行き方知れずとなりました



ひな祭り

思いのほか風はきつく
青空には次々と雲が流れゆき
向かい風は踏ん張らないと
よろよろとあらぬ方向へよれてゆく

手袋をしてくるんだった
時折射す陽に寸の間の温もりを感じるが
風呂敷包みを持つ手がかじかむ

坂道でふと顔をあげれば
ちょうど寄せてきた鉛色の雲の塊から
白い小さな雪粒が風にのって当たってきた



美しき官女

博物館へ行く
そうして
大好きな「狆(ちん)引き官女」を探す

今年は奥の展示室で
大きなガラス戸の向こう側にいた

相変わらずの美しさだ
だけれど
なにかが違うなにかが違う

ガラス戸に隔てられたせいなのか
落とし気味の照明のせいなのか

いやいやおそらくその右手
空(くう)に吸い込まれて
見えない右手にあるものが
もはやあの日奪われた
僕のココロではなくなったのだろう

美しい貴女(あなた)にふさわしい
美しさと雄雄しさを兼ね備えた
理想のココロを手に入れたからなのだろう



梅は咲いたか

弥生三月青空に
つられて外にひょぃと出りゃ
思いのほかの冷たい風に
くっさめくっさめ くしゃみの洗礼

油断召さるな 店先の
雛人形の華やかさ
さりとて梅さえ咲いてはおらぬ
まちっとまちっと 辛抱じゃ



不在

「厄除け祈願」の幟が取り払われ
やっと静けさを取り戻した参道をゆく
手水舎では菜の花柄の手ぬぐいが
くるりくるりと揺れている
氷の融けた池の鯉は
ゆうゆうと泳いできては
かわりばんこにパクリパクリと口を開ける
だがミドリガメの亀吉の姿はない

長々とお参りをして
稲荷社の奥の院まで廻って戻ったものの
ミドリガメの亀吉の姿はない
どこか目の届かぬところで
甲羅干しをしているのだろうか

夕方大きな地震があった
もしかしたら
亀吉は異変を察知して
いち早く安全なところへ逃げていたのかもしれない
きっと次に出掛けたときには
のんびりと甲羅干しをしているのだ
「呼んだ?」とでもいうように
のろのろと首を廻すに違いない





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