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2017年2月

アサリ

台所(だいどこ)では
アサリたちが砂を吐いている
「いい塩梅だぁ」とでもいうように
ツノやらアシやらちょろりと出して
ぷくりぷくりと小さな泡を吐く

なぜか今日に限って
調理の手が鈍い
アサリを愛おしいと思ってしまった
バカみたいだ
「全くだ。のろのろとバカみたいですぜ。
今日はおみおつけにするんでがしょう?
いいダシ出ますぜ、オイラたち。
ちゃっちゃとやっておくんなさいよ」

味見をする
旨い 美味しい まいうぅ
鍋のなかのアサリたちは
皆一様に口を開けて
「言った通りでがしょう?」と笑っていた





※「おみおつけ(御御御付」は味噌汁のこと。
  江戸っ子の祖父母が使っていた言葉です。

空咳

空咳が止まらないのは
己の意思に反して
相容れないものを
なにかの拍子に
すぃっと飲み込んでしまったからだ
異形のものは
喉の粘膜に貼りついて
驚くほどの執着で
容易なことでは吐き出されやしない

横向きに寝てごらん
そいつも大人しく眠りにつくかもしれない
ぬるい水をストローで少しずつ飲んでごらん
そいつは徐々に湿ってゆき
ぱらりと喉から剥がれ落ちるかもしれない
そうして落ち着いたら
きみの小鬼が小さな手で
そっと背中をさすってくれるから
目を閉じて
安心しておやすみよ…



二月

ざっと風が吹き
手のひらの枯葉をさらってゆく

代わりに置いてゆかれた風花は
手のひらであっという間に融けてゆく

ブレスレッドの糸が切れ
お守りの黒い玉が四散する

ゆらゆらと頼りない影も
行き場を失った深い想いも
全てを背負って
そら二月が逃げてゆく
追いすがる指の間をするりと抜けて
そら二月が逃げてゆく



吊るし雛(つるしびな)

いぬ、はと、春駒、春告げ鳥
這い子、だるまに三番叟(さんばそう)
人参、ほうずき、唐辛子
つばめ、手鞠に梅、椿

ショーウインドウに飾られた
めでたい春の吊るし雛

くるくると舞う風花を
ガラス越しに眺めつつ
一月往ぬる と呟けば
二月逃げる と続くものあり

ああ、逃げてゆく逃げてゆく

打ち出の小槌がふるると揺れて
三月去る とのたもうた




いつか

やっとこさ
紅く熟したアオキの実
艶々とした葉陰からちょっこり顔を出す
鳥さん鳥さん、見えますか
南天の実も食べ尽くし
さぞやひもじい思いでおられましょう

にいさんにいさん
あれあれあそこに紅い実が
ひとつ行って頂きましょう
弟よ弟よ
あの実はだめだ旨くない
第一食べるところがほとんどないのだ
どこかの庭の半切りりんごを探すとしよう

紅く輝くアオキの実が
哀しい気持ちでおりますと
どこからか聞こえてくる温かな声

人間の気まぐれなりんごなど
そうそう庭にあるものではない
いまに戻っておまえを食べるよ
有難い有難いときっと来る

細長いからだの紅い実は
有難うと呟くと
ぴかりと光ってみせました



途中

雨水(うすい)となっても
降るはまだ雪
孤独な指先凍らせて
唸る北風
心をえぐり
吹き飛ばすがいい
なにもかも



眠ろう

そうか

怖いのは僕だけじゃないんだ

それを知っただけで

今夜は眠れそうな気がする

外の風は荒れたままだけれど

今夜は眠れそうな気がする…



抵抗

青空だけれど
ごうごうと鳴る風が
雲の塊をどんどん押し流してくる
青空だけれど
唸る風に乗って
小さな雪粒がくるくると飛んでくる

冬は潔く立ち去りはしない
未練がましく
北風を吹きつけ
雪や氷を投げつけて
そうしてみんなに睨まれる

冬だって本当はごめんねって思っている
冬はただ淋しいだけなのだ
このまますぅっと消えてしまうのが
なんだか淋しくているだけなのだ





嗤(わら)い

夜更けにこっそり

甘酒を温めていると知ったら

きみはきっと嗤(わら)うのだろう

がらんどうのココロに

温めた甘酒を注いでいると知ったら

きみは尚更嗤うのだろう



再びの

暖かさは巻き起こる強い風とともに
陽光まぶしく風見鶏の影を地に貼り付け
うすうすと這い出してくる人間どもに
春への錯覚と油断をさせ
昼下がりから日暮れへ向けて
ごごごご どどどど と風を唸らせ
冬の寒さを呼び戻す
ほんのいっときの暖かさに
脱いだコートをあわてて引き寄せ
首をすくめて家路を急ぐ
聞こえやしないか冬将軍の
ぐはは ぐはは の高笑い



教え

気温は10℃を超えたけれど
まだ雪は残っている
北斜面の土手や日陰道
日当たりの悪い瓦屋根や庭
塀際に寄せられた雪の山

まめっちぃつぼみがついた梅の枝に
小鳥がひょぃと止まったが
花が咲くにはまだ早いのだよ
一度積もった雪は
そう簡単には融けやしない

融けやしないんだよ…



クラゲのいのち

病院の待合室で会計を待つ間
いつもクラゲを眺めている
海辺にある水族館から寄贈された水槽に
小さなクラゲがたくさん揺れている
じっと眺めていると
自分もその水槽のなかで
一緒に揺れているような気持ちになる

なぜか温かい水のなかで
ゆらゆらと揺れている
クラゲたちのように透明になって
ゆらゆらと揺れていたら
なにもかもきれいに忘れて
もう一度生きられるのだろうか

ポロンとチャイムが鳴って
掲示板に番号が点灯する
ああ、いかなくちゃ
自動支払機は
どうして女のひとの声なのだろう



影絵の時間

僅かに暮れ残る茜色を背に
細い枝の一本一本まで
くっきりとしたシルエットができる
なだらかな曲線の観音像や
反り返った本堂の屋根も
こんもりとした鎮守の杜や
工事現場の二台のクレーンも
美しい影絵になりかわる

全くの闇に紛れてしまうまでの
短くも美しい
そして
ちょっぴり淋しい影絵の時間



ち・よ・こ・れ・い・と

想いを込めたチョコレートは
今年もまた
冷たいテーブルの上で
ひっそりと夜を迎える

行き場のないチョコレートは
たったひと粒でも
ことのほか苦い味がする

ち・よ・こ・れ・い・と
石段を上がったり下りたり

ち・よ・こ・れ・い・と
想いは届かぬままに



昼めし

小脇に丸めた図面を抱え
ザラ雪ざんざんと踏みしめて
口から白い煙(けむ)を吐きながら
作業着の男が歩いてゆく

通り掛かりの石焼きいもを
はふはふはふと頬張るたびに
口から白い煙を吐く
冷えたからだに温石(おんじゃく)代わりか
ザラ雪ざんざん力がこもる



余寒(よかん)

ベランダに月明かりの影が出来る
昼間、ようよう乾いた地面に
うっすらと天花粉のような雪が積もっている

凍てつく空から満月は
冴え冴えとした光を放ち
周りに散る星たちは
微笑んでいるように瞬く

なにかを祈らずにはいられない
降り止まぬ雪に往生しているくにびとのこと
思い出したように揺れる大地に住むくにびとのこと

悪い夢にうなされ怯え眠れずにいるひと
どれだけ友を増やしても淋しさから逃れられずにいるひと
最後まで本心を明かすことが出来ぬままに
ひとり取り残されてしまったひと

祈るよ祈るよ祈るよ
天花粉の雪を蹴散らしながら
煌々と輝く満月に
小さな角を振りたてて
みんなのことを
祈るよ祈るよ祈るよ



気休め

ぴちゃぴちゃと
融けた雪が
樋を伝って落ちる音を聞いていた
ふと気がつくと
外はすっかり日が暮れて
音は消えていた
手すりに残る雪に
そっと指先で触れてみる
するとそれはもう
ぱきぱきと
凍り始めているのだった



雪の朝

古い土蔵の瓦屋根から
湿り始めた土の上
そっと下り立つ一羽のヒヨドリ
葉の重なりが傘になる
大木の下へそそくさと駆け
かさこそ枯葉を突(つつ)くのは
祠(ほこら)を守る南天の
ぽろりこぼれた紅い実探し
細かい雪が降り積む前に
ちぃっとばかし腹ごしらえ



つぐみ

まるで何事もなかったかのように
きみは元気に駆け廻り
仲間たちと楽しげに談笑している
きみはあの頃となにひとつ変わっていない

変わったのは

きっと

僕の方なのだろう



戸惑うサザンカ

サザンカは戸惑う
いよいよだわ と咲いたところが
季節は思ったより進んでしまったかのようで
すっかり出遅れたと暗澹たる思いにかられる

ところがその翌日には
小さな水溜りにも氷が張り
風雪が横に流れて吹きつける
ああ、やっぱり咲いてよかったと
安堵の吐息も束の間で
天気は春と冬とを行ったり来たり

いつもなら
根元に敷かれる鮮やかなピンクの絨毯も
今年は虫食いだらけの古絨毯
こびとが欲しがる花かんざしも
思ったような色にない

なれど
戸惑うサザンカ今日も咲く
戸惑い忘れて今日も咲く



竹林のある寺

暗く沈んだ冬の緑のなかで
揺れる薄い翡翠色は
風の悪戯で露わになった
竹の葉裏の色であり
雪解けの水溜りに吹き寄せられた
千切れた竹の葉も
なぜか皆
葉裏をみせて落ちている

その葉の上を
餌を探すつぐみが
ちょちょっと駆けてゆく
大きな音を立てて
寺の屋根から雪が滑り落ちる
人気(ひとけ)のない本堂は
相変わらず森閑としている




よだかの星は
燐の火のように
青く美しく
ずっと燃え続けているらしい
それほど美しくなくともよいから
遠い夜空で静かに燃え続けていられたらいいな
誰の邪魔にもならないように

そうつぶやいて
名前の知れない小さな鳥は
やっと眠りにつきました




立春に

少し前まで
真っ暗だった帰り道が
今日は夕陽に照らされている

看護学校のガラス窓がオレンジ色に染まる
坂を下り、次の坂を上り切る頃には
二台のクレーンが夕映えを背に
大きなシルエットに変わる

刻々と
確実に
容赦なく
時は流れ去り

口中に残る苦い味とて
残酷にも
いつしかきれいに消え失せてしまうのであろう



内なる鬼

大きな声が降ってきて
雪の上に穴があく
ぽつりぽつりとあいた穴には
炒った大豆が沈んでいる
あとでこっそり小鬼が拾い
ぽりぽりおやつにするのだろうか
それとも小鳥の朝ごはん

鬼は外 鬼は外
心の内に巣喰った鬼は
容易なことでは祓えまい



今日もまた

豆もて追われる身なれども

こころに開いた大きな虚(うろ)に

豆つぶて詰込み詰込み

あらゆる邪気を引き受けて

闇の彼方に果つるとき

涙に暮れるを許し給へ




丸くなる

川縁(かわべり)の裸の大木に
キジバトが丸くなっている

かろうじて幾つかのへたが残る柿の木に
ヒヨドリが丸くなっている

「はて、雀はどこで丸くなっておるのか」
着ぶくれて丸くなった婆さんがつぶやく

新築中のビルの窓には
まだ灯りがずらりと点ったままだ
夜っぴて仕事をするのかしらん

僕はといえば
毛布を身体に巻きつけて
吹き荒れる風のごぅごぅという音を聞きながら
やがては床の上に丸くなってゆく




冬日

北風荒れる寒さの日には

からだもこころも縮こまる

少し寒さの緩んだあとは

尚更キュッと縮こまる

冷えたガラスに頬当てて

雲の向こうの月を想う

細い細い月を想う




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