月と虫

るりりりりぃぃ と


秋虫の声があまりによく響くので


雲で滲(にじ)んだ半月は


思わず光を強くして

何処じゃ何処じゃと身を乗り出した



たぐり飴

隣人の湿った咳を漏れ聞くとき


たぐり飴の甘さを思う


祖父の土産であったろうか


小瓶のなかに割り箸を入れ


兄弟競って手繰った飴の


やさしい色のほわりの甘さ






魂鎮め

そっと奏でられる美しい旋律は

部屋のなかで静かに渦巻き

熱っぽい魂をくるりと撫でると

換気の為の窓の隙間から忍び込もうとする

いがらっぽい夜気を押し戻しながら

邪(よこしま)な熱を外へと連れ出す



黒白(こくびゃく)の鍵の上を鮮やかに踊る細長い指は

穏やかな眠りへと誘(いざな)う魔法の操り人形

絶え間なく繰り出される旋律に身を委ねれば

やがては魂も鎮まろう



黒い鳥

朝早く

そわりと柿の木に降りた黒い鳥は

吟味した柿の実をひとつくわえて

すぐそばの屋根に移った

数回突(つつ)いたオレンジ色の実を

またくわえ直した黒い鳥は

あっという間に飛び去り消えてしまった

どうやらあれは

翌朝旅立った老人の魂らしかった




ただいま

金銀の木犀の香に酔う暇(いとま)もなく

気づけば花も鳥も入れ替わり

唯一 庭の隅で待っていた白い花たちは

ほっとしたように静かに閉じては

行儀よく散ってゆく

さぞや待ちくたびれたことだろう

今帰ったよ ありがとう



盆の踊り

雨は止みはしないが

合図の花火が鳴った

太鼓と笛の音がかすかに聞こえてくる

どんなメロディかまでは分からない

ゆっくりとしたリズムの静かな踊りなのか

テンポの速いリズムで賑やかに踊っているのか

雨は笠を濡らし 髪を濡らし 浴衣を濡らすが

踊りの輪は崩れることもないのだろう



打ち上げ花火

今年もまた

ベランダの手すりにもたれて

遠い花火をみている

次々と咲く打ち上げ花火は

たとえ尺玉といえども

こうも離れていれば

僕の手のひらの上に載る大きさ

遅れて聞こえてくる破裂音も

隣家の庭で鳴く秋虫の

りりりの声に掻き消される

この距離なら

この距離なら 傷つくこともなかったのにな





終演

休むことなく奏でられるピアノの音色は


聴く者の心を温めて


丸く平らかにしてゆくのだけれど


「またね」と幕が引かれたそのときから


再び心はささくれ出す




境界線

きみは

静か過ぎるこの夜に


かえって


胸が騒いだりはしないのか



新月

新月の晩

風は止んだが

開け放した窓から

ひんやりとした空気が忍び込んで

風呂上りのからだを冷やしてゆく

聞こえてくるのは蝉ではなく

こおろぎの声

脈打つ頭痛はいつ鎮まるのか




«爪

Moonlight

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