四月の雪

四月の雪の気まぐれは

重く湿ってつきまとう

明けて消えゆく道連れと

さくらの花の解(ほど)かれて

木道の上に散り撒かれる

桜堤の一本は

堪え切れずに枝を折り

川面に揺れるさくら花

ぱくりと天に向けられた

白く哀しい折れ口に

鳴くよ鶯 慰めのうた


緩む

散り初めの花もあるというのに

梅の林はしとやかに香る

密かに稽古を積んでいたのか

鶯が思いがけぬ上出来な声で鳴く

色づき始めた桜の枝を

散歩の犬がひょいと見上げる

寒さに震えていた提灯も

今日はにっこり桜色に揺れる


切り身の夢

僕は切り身だ

焼こうが 煮ようが 揚げようが

文句は言わない 好きにしろ

なにせ切り身だ

親方の胸三寸で 全てが決まる

逆らえば 冷凍庫の暗闇に放り込まれる

ああ 親方が「ちっ!」と舌打ちをする

どうやら僕の端っこが崩れているらしい

きっとこのあと衣で誤魔化し

油の海に放り込まれるのだろう

僕は切り身だ

元の名前も姿も覚えちゃいない

どこから来たのかさえも分からない

だがこうして油まみれになる前に

海というものを見てみたかった

たった一度きりでよいから

塩辛いという水のなかを

自由自在に泳いでみたかった


足踏み

不穏な空の不穏な雲は

雪を撒き撒き逃げてゆく

桜祭りの提灯が

勘弁、勘弁と震えている

色づきつつある桜木は

じっと目を閉じ口を閉じ

気配を消して時を待つ


ぼたん雪

ぼたん雪
みるみる屋根を白くして
おでかけ猫を部屋へ追いやり
梅の花にも容赦なく
ぼたん雪
これでお暇(いとま) ごきげんよう
みるみる融けて消えてゆく
何事もなかったように梅の花
満開のまま ごきげんよう


紅い欄干

雪融け待って塗り替えられた

紅い欄干 太鼓橋

霧の雨にしっとり濡れて

みてみてみてみて

綺麗でしょう 素敵でしょう

少女のように歌うのだ

つぼんだままの染井吉野

小さく震えて 寒さのせいか

それとも薄暗い景色のなかで

ひときわ映える欄干の紅さが

綺麗で 素敵で 羨ましくて

きりきり心がねじれてゆくのか


夜のベランダ

僕の夜のベランダは

まだまだ寒くて出られない

早くに雨戸を立ててしまうから

月や星の輝きに気づかずに

夜の鳥たちの吐息も聞き漏らし

膝を抱えた部屋の隅で

堂々巡りの闇へ落ちてゆく


三月の風神

昼間

桜の枝がほんのり色づいてみえたのは

沈丁花の香りのせいかもしれない

夜更けに激しさを増す風は

その春の香りを吹き散らして

ごごごごご どどどどど

季節を押し戻すかのように

咆えまくり 暴れまくる

温んだ空気と凍える空気とを入れ替える

三月の風 風神の高笑い

ごごごごご どどどどど

まだだ まだまだ まだなのだ

うはは うははは うははははぁ


サクラサク

哀しい歴史を持つ城の

古い石垣を丹念に調べ

好物のオムライスをもりもり食べて

にっこり笑って帰って行く

サクラサクの少年の背中に

まだ固いつぼみをつけた桜木が

まるでエールを送るように

その枝をそっと揺らしている


静寂

これから雪になるという

小鳥も小花も数多の花芽も

静かに時を待っている

これで雪は終いになるか

居住まい正す紅白の梅



«森の小径(こみち)

Moonlight

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