ぽちりの行方

寺の本堂脇にそびえたつ
大きなケヤキの古木の枝に
ぽちりと光るものがある

ひとつは枝の上の方
ひとつはずっと離れた下の方
ひとつがぽちりと瞬けば
少しの間をおき
別のひとつがぽちりと瞬く

ピンク色の夕焼け空が
墨を含んだ青色に変わる
やがてそれさえも闇に沈み
畳の目ひとつ分だけ長くなった夜になる

夜更けを迎え
上の方のひとつは
ゆっくりぽちりと瞬くと
すぃっと夜空に飛び出して
あっという間に見えなくなった

下の方のひとつは
夜空に航跡を探していたが
やはりゆっくりぽちりと瞬き
静かに枝を離れていった

「またね…」
そんな囁きを聞いたのは
一羽のふくろうだけだったろう



夏至の夜

雨上がりの光る路面

澄んだ夜気を吸い込んで

雨だれの音を聞きながら

今夜はどんな夢を見るのだろう

月明かりのない

夜の水たまりに願掛けて

どんな夢が見られるのだろう



つやつやふっくら虫

道端の

ヒメジョオンの小さな葉に

小指の爪ほどもあるかなしかの

小さな小さなテントウムシがいた

つやつやふっくらと

黒豆の煮豆のようなからだに

これまた小さな紅い星を

ふたつばかし背負っていたよ



お裾分け

お裾分け頂いたさくらんぼは
洗い桶のなかで
流水に光る

つやつやと紅く熟した実は
嬉しそうに
流水に光る

急に暑くなってきたので
ガラスの鉢に盛ってみる
紅く丸い実をなぞるよに
水滴がつつと流れる

「さぁ、召し上がれ」
「まぁ、頂きますね」

ひとりままごとの日が暮れる



酔いしれて

泰山木(たいさんぼく)の花が咲いた

白い大きな花は

手の届かぬところで香っている

足にたくさんの花粉をつけた小さな蜂は

花の間を行ったり来たり

蜂よ

きみはその香りに酔うことはないのか

僕は本気できみが羨ましい

なぜなら

僕はその白い花のなかに身を埋め

息が詰まるほどの香りに酔いしれて

そのまま息絶えてしまいたいと思うからだ



六月の桜

初めて目にする菓子であった

お椀を伏せたような形の
ほんのりピンク色のゼリーのなかに
本物の桜の花が一輪
ふわりと浮かんでいるのだ

程よく冷やされたゼリーは
白磁の小さな正方形の菓子皿の上で
ふるふると揺れた
小さな銀のスプーンで
そっとすくったゼリーは
口のなかでほのかな桜の香りを放つ

思いがけず
胸のうちがざわついてくる
思い出してはいけない
桜子はもう戻っては来ないのだ

「あら、口に合わない?」
「いや…」
怪訝な顔の叔母をよそに
僕は
庭に一輪だけ咲いた
夏椿の白い花を見ていた



赤備え(あかぞなえ)

鳥居の白い礎石の上に
長い触角を持つ虫が
紅い甲冑姿で佇(たたず)んでいる

井伊か真田か
はたまた武田か

戦(いくさ)を仕掛ける日を前に
お諏訪さまに詣でたか

健御名方(タケミナカタ)の神様に
己の武運を願ったか

やあやあ、ベニカミキリの大将殿



落花

植え込みからこぼれた
鮮やかなピンク色の花にも
雨は降る

いずれは
茶色に朽ちてゆく花びらに
雨は雫を宿らして

それは
儚いながらも
精一杯咲き切った花への
末期の水

その雨の雫もまた
遅かれ早かれ
すっと乾いて消えてゆく

共に儚いいのちなれども
いまはただ
微かな温もりに
束の間の夢をみる



小鬼の夜更かし

夕方からの雨は上がり
雷さまもお帰りになりました
夜も更けて
やけに辺りが静かなのは
霧が出てきたからなのかもしれません

朝早いのだから
とうに眠っていなければならぬはずの小鬼は
ひとり眠れずにおりました
何度も寝返りを打つうちに
とうとう寝床を抜け出してしまいました

こっそり開ける雨戸の隙間から
ひやりとした空気が流れ込みます
「うう、ぶるる」
身震いしながら見上げた夜空に
半分よりは少し丸いお月さまがおりました
お月さまのところまでは
霧は届いていなかったのです

小鬼にはお月さまが頷いたように見えました
「さぁ風邪をひかぬうちに寝床へお戻りなさい」
「はい、おやすみなさい。お月さま」
小鬼はぴょこんとお辞儀をすると
そうっと雨戸を閉めました
目と鼻先を紅くした小鬼は
急いで寝床へ戻り
頭からすっぽり布団をかぶりました

更け待ち月の夜のことです



寝待ち臥し待ち

今宵の空は雲厚く

それでもほんの切れ間から

行灯色の光が洩れる

寝待ちの月のお出ましは

半分程に留まって

あれよという間に雲隠れ

ああ、しょんがいな、しょんがいな



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Moonlight

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