月見

外はぶるぶる寒いけど

やっぱり今夜見ておこう

明日は雨かもしれぬから

やっぱり今夜見ておこう

空には星がきらきらたくさん

冷え込む空気がピーンと張って

ほぅら見えたよ お月さん

おっきなおっきなお月さん





ツグミ


晴れ間があるというのに

一日中ちらちらと雪が降っている

珍しく

ヒヨドリが戻ってこないので

半分程の大きさになった紅い林檎を

存分に味わっている一羽のツグミ

いま窓に近づけば

すぐに飛び立ってしまうだろう

今日こそは

腹一杯食べてもらいたい

椅子にかけたまま

ふかふかの膝掛けに

老人はそっと手を伸ばす




丘の上にて


黄色い衣が翻る

小雪混じりの寒風に

読経の声が散れてゆく

手持ちのりんの音(ね)も散れてゆく

真新しい塔婆がカタカタ鳴って

凍みた白百合よれよれと震える

冬の嵐が荒れ狂うのは

西方浄土へゆくまえに

生まれ故郷へ連れてゆけと

遥か北方の極寒の島を

懐かしい故郷の島を

まいちど見たいと願ったからか

線香の煙も四散して

僧侶の白足袋が目に痛い







二月の花屋



花屋には先客がいた

「外はまだ寒いのに ここにくると

たくさんの花があって楽しくなるね」

「昨日大きな注文を受けたので

これでも今日は少ない方なんですよ」

「おや そうなのかい。いやいや これでも十分

気持ちが明るくなってくるよ」

「まあ そうですか。確かにこの商売は

ストレスが溜まらないかもしれません。

嫌なことがあっても お花を見ていると

気持ちがすーっと軽くなるんですよ」

花屋のおかみさんは笑顔とともに花束を渡す

「やあ ありがとう」

先客は小さな花束を受け取ると

嬉しそうに店を後にする

僕はつられて少しだけ奮発してしまった




凹み(へこみ)



ペットボトルの小さな凹みは

放っておいても大事無いか

あちこち押しても直らぬのだよ

胸の内の小さな凹みは

放っておいても大事ないか

あちこち撫でても直らぬのだよ

甘い甘い黒飴でも

ちょっくら舐めてみようかね




夜明け

眠りの底で不意に聞こえ出す

これは

雪かきの音だ

昨夜あれからまた積もったのだ

きっと歩く度にきゅっと鳴る雪だろう

きっと雪玉の作れない雪だろう

きっと握ろうとする手袋を逃れて

煙のように消えてしまう雪だろう

そうしてきっと

凍てついた道を行く車のタイヤは

パリパリパリと音を立てるのだろう



雪の日


空き地の隅に打ち捨てられた枝々は

たわわな紅い実つけたまま

小鳥が来るのを待っていた

寒の戻りの凍える日

冷たい粉糖が降り注ぐ

枝々の隙間から

一羽の小鳥が潜り込み

紅い実啄ばむ二つ三つ

ひょいと小鳥が飛び立つと

白い化粧の枝々は

嬉しそうにさりさり揺れる

白い帽子の紅い実も

嬉しそうにさりさり揺れる




お針

わたしはお針が苦手だから

ちくりと刺してしまうのだ

どうしたってお針が苦手だから

ちくりと刺してしまうのだ

そうしてぷくりと盛り上がる

小さな小さな血の粒を

ちゅっと吸ってはまたちくり

けしておいしいものではないけれど

こうして血の味覚えたね



鉛筆を。



鉛筆を削っている

小さなナイフで削っている

鉛筆を削っている

ずっとずっと削っている

夜はどんどん更けてゆく

部屋はしんしん冷えてくる

削っても 削っても

芯は姿を現さず

削りカスだけが静かに積まれてゆく

ああこれは 芯のない鉛筆ですね

ああこれは 僕なのですね

あなたは知っていたのでしょう

そうですね ねえさん




暦の春


半分は晴れ 半分は曇り

晴れの方に雨が降り

曇りの方に虹が出る

池の氷は一気に融けても

日陰の雪は融け残る

音立て巻いて吹く風の

合間を縫って鳥がゆく




«渇き

Moonlight

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