気後れ

青紫の桔梗の花に

きれいだけどさみしそうねという君は

なるほど黄色い向日葵の花

そのまぶしさに僕はついつい目を伏せてしまう

716

小鳥の声が止む

ぽつぽつ雨が降ってくる

夜の入口に向かって

ぽつぽつの間隔が短くなってゆく

濡れた道路で車のタイヤが音を立てる

虹の日に虹は出ずだが

いま ひぐらしが鳴いた


きうり(きゅうり)天王祭

霧のような雨は止まないが

新しい浴衣に長靴履いて

頭にお揃いのお団子を結い

幼い姉妹は傘をさす


 それは二本ともお供えしてね

 神さまから一本頂くのよ

 病気にかからないお守りだよ

 ばぁば わたあめ買ってよね

 それはお参りが済んでから


霧のような雨は止まないが

息災願う人波は途切れない




梅雨寒

きっちりと仕舞い込んだ長袖を

一枚 また一枚と取り出して

冷たい夏の予感に羽織る

勢い込んでいた半袖は

奥へ奥へと追いやられ

焦がれる青の紫陽花は遠い夢


すいすいとんぼ

シロツメクサの原っぱでは

とんぼが数匹飛んでいた

白い花をかすめながら

すいすいすいと飛んでいた

昨夜の雨が残る原っぱ

近道をして靴を濡らす

飛べばいいのに 飛べばいいのに

ぼくたちみたいに飛べばいいのに

すいすいすいとからかうように

かわりばんこに行く手を阻む



一日花


雨の名残りの地面の上に

またひとつ落ちてゆく

あぁと小さく息を漏らし

またひとつ落ちてゆく

真白な落花は累々と横たわる

ひとぅつ ふたぁつ みっつ よつ

到底数え切れぬ程

いったいいつから僕は

ため息をつくようになったのでしょう


四月の雪

四月の雪の気まぐれは

重く湿ってつきまとう

明けて消えゆく道連れと

さくらの花の解(ほど)かれて

木道の上に散り撒かれる

桜堤の一本は

堪え切れずに枝を折り

川面に揺れるさくら花

ぱくりと天に向けられた

白く哀しい折れ口に

鳴くよ鶯 慰めのうた


緩む

散り初めの花もあるというのに

梅の林はしとやかに香る

密かに稽古を積んでいたのか

鶯が思いがけぬ上出来な声で鳴く

色づき始めた桜の枝を

散歩の犬がひょいと見上げる

寒さに震えていた提灯も

今日はにっこり桜色に揺れる


切り身の夢

僕は切り身だ

焼こうが 煮ようが 揚げようが

文句は言わない 好きにしろ

なにせ切り身だ

親方の胸三寸で 全てが決まる

逆らえば 冷凍庫の暗闇に放り込まれる

ああ 親方が「ちっ!」と舌打ちをする

どうやら僕の端っこが崩れているらしい

きっとこのあと衣で誤魔化し

油の海に放り込まれるのだろう

僕は切り身だ

元の名前も姿も覚えちゃいない

どこから来たのかさえも分からない

だがこうして油まみれになる前に

海というものを見てみたかった

たった一度きりでよいから

塩辛いという水のなかを

自由自在に泳いでみたかった


足踏み

不穏な空の不穏な雲は

雪を撒き撒き逃げてゆく

桜祭りの提灯が

勘弁、勘弁と震えている

色づきつつある桜木は

じっと目を閉じ口を閉じ

気配を消して時を待つ


«ぼたん雪

Moonlight

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