朝の音 夜の音

乾いた壁に谺(こだま)する

幼子が鳴らすサンダルの音

きゅ きゅ きゅ きゅ

きゅ きゅ きゅ きゅ

朝の空気を震わせる


十日余りの月が入(い)る頃

とうに夢見の幼子の寝息

すぅ すぅ すぅ すぅ

すぅ すぅ すぅ すぅ

朧(おぼろ)な月の橙色には気づくまい






蜘蛛の教え

山陰(やまかげ)の紫陽花は未だ色づかず


真白な手毬がぽんぽん浮かぶ


いいや寄ってご覧な とっくとご覧な


真白ななかにもうっすらと


青が潜んでいるのだよ


赤くて細い小さな蜘蛛が


ほらね ほらね と足招きする




短夜(みじかよ)

水しか飲まぬと誓うたら


我の胸でも光るか ほたる


儚きいのちの点滅に


明けるが先か 果てるが先か




夏椿

ほろりと落ちる白い花


心配はいりません


池に満ちる湧水が


やさしく受け止めてくれるから


ゆらゆら揺れて ゆりかごの


眠りにつかせてくれるから




山背(やませ)

まだまだ小さい紫陽花に


青い色づきを見つければ


山背に震える心の内に


ポッと点るよ 温かな灯が







※山背とは、北日本(主に東北地方の太平洋側)で

 6月から8月に吹く、冷たく湿った東よりの風のことです。

さがしもの

霧雨の降る肌寒い日は静かだ

いつもなら 朝から賑やかな鳥たちも

白く煙る森のなかで身を寄せ合い

小さな声で囁きあっているのだろう

傘は要る様(よ)な要らぬ様(よ)な

それでも きみ

じっとそのまま立ち尽くしていたら

霧雨はじわじわと滲みこんで

骨の髄まで滲み込んで

からだに毒だよ いけないよ

霧雨の降る肌寒い日は鳥たちを見習って

暖かくして過ごすのだ

さがしものは そう簡単にはみつからないものだから




眠りの儀式

真夜中のため息は


夜気に紛らせ しゅるしゅると放て

厳重に窓を閉めたら


つぶやくような やわらかな歌声に身を委ね


静かに目を閉じるのだ





羽を落としていったのは誰?


焦げ茶色の羽 一枚

根元の方が段々に白い


自然に抜けたのか


諍(いさか)いのはずみで抜けたのか


それとも わざと抜いたのか


気をつけて探せば 点々と


一枚ずつ落としてあるのか


ヘンゼルとグレーテルのように





行々子(ぎょうぎょうし)

危ぶんでいた空色が

どんどん怪しくなってくる

黒雲がぐんぐん広がってゆく

草丈を茫々と伸ばした河原から

ギョシギョシギョシ と声がする

「雨来るぞ 雷来るぞ」 せき立てるように

ギョシギョシギョシ と声がする

すると雨粒ポツリと落ちた

わぁ、勘弁 と足を速める背に被せ

「はよう、はよう」 追い立てるように

ギョシギョシギョシ と声がする

やっとこ玄関に飛び込むと

そうら来た来た雨と雷








「行々子口から先に生まれたか」
                      小林一茶

行々子はオオヨシキリのことだそうです。




梅雨入り

梅雨入りは肌寒く

用済みと思った長袖を

またぞろ引っ張り出してきて

アイスよりはホットに目が行き

毎日賑やかだった鳥たちの声はなく

傘をさすまばらな通行人は一様に早足だ

植え込みのサツキの落花は濡れて

まだ鮮やかなピンク色のまま

歩道に絨毯を敷いてゆく




«霧雨の日に

Moonlight

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