古い家

時の流れを忘れたような その家は

狭い庭の藤棚から伸びた藤蔓が

軒を越えて屋根の殆どを覆いつくしていた

節になると 申し訳ばかりの紫の花が咲いて

昼でも薄暗い庭に ぽぅと灯りが点いたようであった

いま その家は 裏山から廻りこんできた竹に囲まれ

屋根を覆う藤蔓は ほんの隙間から見えるだけである

もう藤の花は咲いてはいない

南向きの家なのだが その部屋の中へ

柔らかな春の陽射しが届くことはないのだろう

玄関前に停めてある 白い軽自動車を訝(いぶか)りながら

散歩の足を止めていた老人は 再び歩き出す





雨の景色

まだ小さく やわらかそうな楓(かえで)の葉

長々と降る雨が その繁りを促す

幾本かのムスカリは 鮮やかな青紫色をして

その楓の足元に咲いている

雨音だけが響く昼下がり

今日も少し肌寒い




ぽろぽろ

曇り空に咲く

ハナミズキのピンクを縫って聞こえてくる

ぽろぽろと爪弾くギターの音

誰が弾いているのか

なんという曲だったか

真夏から一気に冷やされた脳味噌なら

なにか思い出せそうな気もするけれど

思い出さない方がいいのかもしれず

ぽろぽろと爪弾くギターの音に

僕の心もぽろぽろと爪弾かれて 雨を待つ



切れた糸

切れた糸を蝶結び

「もしもし、もしもし」「聞こえる、聞こえる」

ほぅら直った糸電話

でも

糸のない電話は結べないよな

きみを呼ぶ僕の声は

余熱の残る夜空にすぃっと吸い込まれて

はい、おしまい

きみの耳に二度と届くことはないのだからさ



息をつく

四月の夏日に 少しだけ風が吹く

八重桜 ふぅと息をつく

つられた山桜 ほぅと息をつく

お遣い小鬼は ゴクゴク はぁぁと息をつく

寺のもてなし井戸水に

ゴクゴク はぁぁと息をつく




紅椿

空堀へと 雪崩れる紅(あか)の藪椿

潤んだ紅のその理由(わけ)は

「御衣黄(ぎょいこう)殿が伐られなすった」

「病か虫か」

「わからん」「しらん」

「酷い、酷い」

二度と見(まみ)えぬ緑の桜

想い 哀しみ 悼みつつ

流す涙は血の色となり

空堀へと 雪崩れる紅の藪椿




春雷

細い細い橙色の三日月は

早々に眠りについてしまい

残された闇を突くように

思いがけず降り出す雨

春雷に怯える小鬼を抱いて

さてさて どうして寝かせたものか





白い花

降り止まぬ雨のなか

薄暗い庭の片隅で

背丈の低いチューリップが

ぼぅと白く光を放つ

滝にでも打たれてきたかのように

白い肌に清らかな水滴を宿らせ

咲きかけの花びらの先からは

「六根清浄」とでも聞こえてきそうなのだ






嫉妬

古びた石垣の僅かな隙間から

小さな花を咲かせている

名前の知れぬ可憐なきみの

強さが僕には眩(まぶ)しいのだ



うっかり

原っぱを横切るときは 気をつけて

小鳥たちが餌を探して 啄(つい)ばんでいるから

うっかり足を踏み入れると

小鳥たちが一斉に飛び立つ ほらね


林を抜けるときは 気をつけて

小鳥たちが餌を探して 啄ばんでいるから

うっかり足を踏み入れると

小鳥たちが一斉に飛び立つ ほらね


足元から勢いよく羽ばたく小鳥に驚いて

頭の上から勢いよく羽ばたく小鳥に驚いて

その度に 自分のうっかりに腹を立てながら

ごめんごめん と 小鳥たちに謝ってばかりいる




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Moonlight

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